interview
2025/12/10 掲載
こんな仕事があるのか岩手/19
「地方は仕事が少ない…」と思っているとしたら、それ、誤解です。岩手には意外な職種や面白い仕事がいろいろあるんです。今回ご紹介するのは、花巻市で240年以上続く染物屋の仕事。10代目・取締役の小瀬川雄太さんにお話をうかがいました。
染め物屋と聞くと、のれんや手ぬぐい、お祭りの法被などを丁寧に染め上げる姿を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。商店街ののれんや町内会の旗、地域のお祭りを彩る衣装など、染め物は日常や行事を支え、人々の暮らしとともに歩んできました。
そんな染め物を生業としてきたのが、株式会社小彌太(こやた)です。のれんや幕、旗、タオル、お祭りの袢纏(はんてん)などを手がけるほか、選挙ポスターの掲示板や候補者表示物の制作も行っており、選挙関連事業は国内トップクラスのシェアを誇ります。
昔から受け継がれてきた染めの技術からプリント印刷まで、お客様一人ひとりの要望を丁寧に聞き取り、日々ものづくりに励んでいます。

小彌太の仕事は、染め物だけにとどまりません。2024年に立ち上げた郷土芸能事業「雷太(らいた)」では、鹿踊りで使用する鹿頭(ししがしら)や鬼剣舞のお面づくりなど、祭礼用品の制作にも取り組んでいます。
背景には、鹿頭やお面を作る職人の高齢化や後継者不足という課題がありました。そこで小彌太は、3Dスキャナーや3Dプリンターといった最新技術を導入し、ものづくりの現場に新たな解決策を見出しました。3D技術は会社で取り扱ったことのない未知の領域でしたが、社外の副業人材や郷土芸能の担い手をアドバイザーに迎え入れ、新しい事業として形にしていったのです。
この取り組みの中心で動いてきたのが、10代目で取締役の小瀬川雄太(こせがわ・ゆうた)さんです。

「花巻に戻ってすぐ郷土芸能の仕事に関わり、改めて岩手には本当に素晴らしい伝統が残っていると実感しました。こんなに豊かな文化を絶やすわけにはいかない…では、うちの会社で何ができるだろうかと考え、まずは3Dプリンターで鹿頭を作ってみることにしました」
3Dスキャナーで既存の鹿頭を立体データ化し、カーボンファイバー素材で仕上げた鹿頭は、従来の木彫りよりも軽く、しかも丈夫。これまで一つにつき1カ月ほどかかった制作も、1週間で完成するようになりました。
「こうした新しい技術を使って郷土芸能品をつくることに、賛否はあるかもしれません。でも、担い手がいなければ伝統は途絶えてしまいます。伝統を守るだけではなく、新しい技術も柔軟に取り入れていくこと。それが未来へつなぐ大切な一歩だと思っています」と雄太さんは語ります。

ほかにも小彌太では、「ゴムわらじ」の制作にも取り組んでいます。かつてゴムわらじを作っていた会社がなくなり、踊り手や郷土芸能団体から「小彌太で作ってほしい」という声が寄せられたことがきっかけでした。
既存品を参考に何度も試作を重ね、底材にはスポンジシートを組み合わせるなど素材を工夫して軽量化とクッション性を実現。女性の踊り手も多いことから、従来の規格に加え、小さな足用のサイズも新たに展開しました。軽くて丈夫と、踊り手の方から好評です。
また、2022年に「風流踊」としてユネスコ無形文化遺産に登録されたことで、鬼剣舞を始めとする郷土芸能の知名度が世界的に高まりました。海外の踊り手からもゴムわらじの注文が寄せられるなど、郷土芸能を世界へ広げる一歩にもなっています。

さらに、小彌太では「鹿踊り採用」を実施しています。郷土芸能の経験者や興味のある人を積極的に採用することで、踊ったことがある人ならではの視点を郷土芸能事業に取り入れたり、本人の興味に合った仕事に関わってもらうことを狙いとしています。
「少子高齢化が進む中で、技術や伝統が失われる前に、次の担い手へバトンをつなぐ環境をつくりたいんです。それと数年後には、花巻まつりで会社の神輿を出したり、鹿踊り部をつくることも考えています。『雷太』は、まだまだ新しい挑戦を広げていく段階。郷土芸能に関わる衣装や道具の製造だけでなく、関連商品の開発や情報発信にも取り組みながら、『郷土芸能の総合メーカー』を目指します!」
そう語る雄太さんの眼差しには、未来への希望が映っていました。
伝統を大切にしながら、新しい挑戦で未来をひらく。小彌太の歩みは、岩手から全国へ、そして世界へと広がっていきます。
(取材時期:2025年9月)
小彌太に興味を持った学生さんにメッセージ!
興味を持ってくださり、ありがとうございます。小彌太のミッションは「想いを形に 心を動かす 豊かな時代をつくる」ことです。染め屋として、お客様に感動していただけるモノづくりをしてまいります。

■株式会社小彌太
1781年創業。花巻市に本社を置き、伝統ある染め物・スクリーン印刷・選挙用品を手がけています。2024年には郷土芸能事業「雷太」を立ち上げ、3D技術を活用した鹿頭や祭礼用品の制作など、新しい挑戦を続けています。江戸時代から続く伝統と最新技術を融合させたものづくりは、染め物の枠を超えて国内外から注目を集めています。
■企業サイト
https://www.koyata.co.jp





