みんなの想職活動

interview

2026/2/26 掲載

あつまれ!熱血技術者/15

食へのあくなき探究心が新たな特産品を生む!

ものづくりに魅せられ、自分の仕事に心血を注ぐ技術者たち。彼らは、どんなことにこだわり、どうやって課題をクリアしていくのか? ものづくりの世界で凌ぎを削る、熱き技術者たちに迫るこのコーナー。今回は、盛岡市にある株式会社浅沼醤油店の吉田成美(よしだ・なるみ)さんの登場です!

浅沼醤油店の創業は大正3年。100年以上の長きにわたって、地域に根ざした調味料の製造や販売を行っています。盛岡市にある工場では自社製品の醤油や味噌などのほか、自治体や企業から依頼を受けて商品化された調味料も製造しています。

開発部・品質管理課に所属する吉田さんは、自身も食べることが大好きだという食のエキスパート。これまでどのようにして商品開発に携わってきたのでしょうか。

「モール法」という手法を使い、調味料の塩分濃度を測定する吉田さん。薬品の色の変わり始めを見極める必要があるため、正確さと経験値が求められます

一般的に商品の開発は、企画から製造までを一貫して行う「自社製品開発」と、企画や製造の一部を他社に委託する「OEM(=Original Equipment Manufacturing)」に分けられます。

OEMの商品開発では、これまで「レストランで人気のソースを小売用にしたい」といったクライアントの要望に合わせて商品レシピの開発を行ってきたという吉田さん。

こうした開発の肝となるのは、保存に適したレシピを考案すること。お店のレシピがあればすぐに再現できるのでは? と思いきや、日持ちさせるために砂糖や塩など、調味料の配合を変える必要がある場合がほとんどなのだそう。

また、工場の稼働スペースや、一つの商品製造にかけられるコストと時間には限りがあります。そうした制限の中で、いかに長時間煮込んだような味やとろみを醸し出すかということも、調味料の配合により変わってくるのだとか。このように、シェフやお客さんが納得する“お店の味”は、開発担当者の試行錯誤の末、再現されています。

開発研究室にずらりと並ぶ調味料。ここでたくさんの試作を繰り返し、商品が生まれます

一方、自社製品の開発で印象的だったというのが「イタヤカエデのプリン」です。盛岡・中の橋町にある直営店「クラビヨリ」のリニューアルオープンに合わせ、イートインできるプリンのレシピ開発の話が持ち上がり、吉田さんが抜擢されました。

与えられた開発期間は3ヶ月ほど。吉田さんはさまざまな条件をクリアしながら、このミッションに挑んでいくことになります。

開発の条件のひとつは、岩手のイタヤカエデの木から香り成分を抽出して、バニラのような甘い香りを活かすこと。和製メープルとも呼ばれるイタヤカエデの、天然由来の甘い香りと卵の香りのバランスにこだわったというプリン。「森林大国である岩手の木を生かしたプリンを食べてもらうことで、森の環境や木の種類などに興味が広がっていくことを意図しました。新たな県の特産品になってくれれば」と吉田さんは期待をこめます。

試作で食べた数は50個以上! まさに努力の結晶ともいえるプリン、「クラビヨリでお客さんが購入している姿を見た時は本当にうれしかった」と喜びもひとしお

長期保存を叶え食品ロスを減らすという観点から、プリンは冷凍販売しています。
「お客さんが食べる時、つまり解凍した時にベストな状態にするための調整が本当に難しくて。解凍時には“す”という気泡が表面にできやすく、見た目もブツブツになってしまうんです。“す”が多いと食感もポソポソになるので、やわらかさやクリーミーさをどう表現するか、何度も何度も試作を繰り返しました」と吉田さん。

ひとことで「おいしい」と言っても、その好みや感覚は人によってさまざま。数値化が難しいおいしさの定義について、商品開発を通して吉田さんは自分なりの答えを見つけたようです。

「入社したての頃は、自分の味覚を信じて、これでどうだ! と思える商品を追求していました。もちろん自分がおいしいと思うものを作るのは大事なんですけど、お客さんが何を求めていて、どういう味にしてほしいのか、その想いに寄り添うことがいちばん大事なんだと気づいたんです」。

品質管理は、私たち消費者の安全を守ってくれる重要な仕事。「疑問に思ったことはうやむやにせず、必ず確認するようにしています」

現在は商品開発と兼務する形で、品質管理をメインに担当しているという吉田さん。商品ごとの規格値に基づいた品質チェックや微生物検査など、出荷前の最後の砦を担っています。そのため、日々の業務では誠実さを大切にしているのだといいます。

また、製造部とのコミュニケーションも品質管理の仕事には欠かせません。
「今年の夏は特に暑く、工場の釜の菌の数値が例年より高く出てしまったんです。そこで製造部のスタッフと話し合いを重ね、釜の洗浄方法を見直し対策を立てました」。

薬剤を使うなど業務の手順を増やすのではなく、いかに簡素化し、持続可能なやり方で安全な商品を製造していけるか。商品開発に比べ、いわば影の立役者とも言える品質管理の仕事も、「一つのチームとして同じ商品を作っていることに変わりはない」と吉田さんはやりがいを感じています。

東京都内で学校給食の調理をしていたという吉田さんは、コロナ禍を機に岩手へUターン。食に携わる仕事で地元に貢献したいと転職しました

吉田さんが食に関わる仕事に就いたきっかけは、小学生の頃にまで遡るのだそう。
「給食の献立表を、毎日穴が開くほど読み込んでいた子どもだったんです(笑)。メニューというよりむしろ、タンパク質やミネラルを含む食材や、調味料の欄に興味がありましたね」。

大人になった今も、スーパーに行けば調味料の成分チェックは欠かさず、外食時にはどんなレシピで作られた料理かを考えずにはいられないのだとか。さらに見せてくれたスマートフォン内のマップは、全国の行きたいお店リストでびっしり! 
「いつか食材の旬を追って全国を旅してみたいと妄想しています」と吉田さんは目を輝かせます。

小麦粉や牛乳など、県産食材のおいしさに日々感動しているという吉田さん。「岩手に帰ってきてよかった」とにっこり

「地域の方とつながり、岩手ならではの素材を生かした商品開発はここでしかできない仕事だと思っています。歴史ある地元の企業でこの仕事に就けたことが、とてもうれしいです」。

「難しいから面白い」と商品開発の魅力を語ってくれた吉田さんの、あくなき探求はこれからも続いていきます。

(取材時期:2025年11月)

浅沼醤油店に興味を持った学生さんにメッセージ!

私たちは醤油づくりを原点に、発酵の可能性を広げてきました。100年以上にわたり、研究も製造も改善を積み重ねることで、安定したものづくりを支えてきました。学びながら成長したい方を歓迎します。

■株式会社浅沼醤油店
大正3(1914)年創業。自社製品の製造に加え、100年以上の歴史で培ってきた醸造技術やノウハウを活かし、OEM製造事業を幅広く展開。「業務用調味料・開発.com」では調味料開発の事例紹介のほか、自社製品を使った季節のレシピを掲載するなど積極的に情報発信を行っています。直営店「クラビヨリ」では県内の自治体や企業と共同開発したドレッシングやスイーツを購入することができます。

▶企業紹介URL
https://www.asanumashoyu.co.jp/