みんなの想職活動

interview

2024/2/8 掲載

100年前からある仕事/04

南部鉄器とともに“たのしい”毎日を作る【後編】

塗師、鉄器職人、染物師など、岩手には数百年前から変わりなく受け継がれている仕事がたくさんあります。ここでは、時代の変化に合わせながらも、伝統の技を大切に守り、継承してきた職人たちの仕事をフィーチャー。岩手の手仕事に精通した「百年仙人」が案内します。

前編に続き、1852年に創業した奥州市の及源鋳造を紹介する。同社では伝統的な南部鉄器はもちろん、今の人々の暮らしに合った商品も多く手掛けている。今回は新しい鉄器のデザインと設計を担当する、細谷岳(ほそや・がく)さん(24)に話を聞いた。

前編はこちら▶

よろしくお願いします。私は大学でデザインを学び、入社後は「鉄のたまご焼きkokotama」のデザインと設計を担当しました。

及源鋳造の卵焼き器といえば、以前から長く販売している商品があったように記憶しているが…。

「角玉子焼」ですね。販売から50年近く経つアイテムで、今でも売れ続けている人気商品です。ただガス火専用で作られていることから、IH対応のものを新しく作ることになったんです。

3DCADを使った設計とデザインを担当している細谷さん

「角玉子焼」と「鉄のたまご焼きkokotama」では、どんな違いがあるのかな?

「鉄のたまご焼きkokotama」は以前のものよりも少し大きく、深めに作ってあります。そのため3~4個分の卵を使用した厚焼き玉子が作りやすいタイプ。実は食パンを焼くのにも適していて、外はこんがり、中はしっとりの食感に仕上がります。「角玉子焼」は卵1~2個分がちょうどいいので、一人暮らしの方にもオススメです。

どうやって鉄器をデザインしていったのだろう?

最初は「角玉子焼」も含めて、一般的な卵焼き器のリサーチをしました。使う人のニーズを把握した上で、鋳物の特徴を踏まえてデザインしていきます。また、量産する上で重要なのが“作りやすさ”です。デザインを考えている間は、工場に入り浸って現場の人に相談したり作業を見たりしていました。

デザイン案のメモと、3Dプリンターで試行錯誤を重ねた試作品

一番苦労した点は?

ハンドルの部分です。鋳物は重いので、焼き面とハンドルのバランスによって持ちやすさに大きな違いが出るんです。当社の鉄器は最後に人の手で仕上げの研磨を行うので、削るための目印をつけて職人さんが作業しやすいように工夫もしました。

ハンドル部分が微妙に違う試作品の数々。手に伝わるわずかな違いに、細谷さんのこだわりが感じられた

そもそも、南部鉄器との出会いはいつ頃だったのだろう?

私は出身が宮城県で、大学の頃まで鉄器を使ったことはありませんでした。当時は電気ポットを使っていましたが、ガス火でお湯を沸かしたいと思っていたときに偶然、南部鉄瓶に出会ったんです。一目惚れして半ば衝動的に買った鉄瓶が、及源鋳造の商品でした。

なんと、運命的な出会いだったのだな。そこから南部鉄器のデザインを仕事にしたいと考えたのだろうか?

きっかけはその鉄瓶です。就活中は工芸にデザインからアプローチできる仕事を探していました。ただ意外と募集している会社が少なくて、ダメ元で及源鋳造にメールしたんです。そうしたら面接をさせてもらえることになって就職につながりました。

自ら動き、夢を叶えたとは素晴らしい!今、働いていて南部鉄器の歴史を感じる瞬間はあるかな?

簡単には溶けない鉄を溶かして、物を作り出すという先人たちの発想がすごいと思います。その技術が今も変わらず受け継がれていることに驚きますし、南部鉄器ならではの価値につながっていると感じています。

工場に隣接する「OIGENファクトリーショップ」。暖かな日の光に照らされて、鉄瓶やフライパン、鍋などがズラリと並んでいる

これから作ってみたいものはあるかな?

鉄瓶や調理器具を作りたいという思いはあります。ただ、必要以上に作りすぎないことも大切にしたいです。大量生産して大量消費することも、効率の面から考えれば必要かもしれません。ただ、鉄器のように手間がかかっても一生使い続けられるものは、環境に優しく、豊かな暮らしを思い出させてくれるアイテムなんです。南部鉄器の価値を守っていくためにも、作りすぎないことを意識していきたいです。

左がガス火専用、右がIH専用の鉄瓶。IHは火力が強いため、ガス火専用のものよりも直径が大きく、底面も厚く作られている

最後に、この仕事の魅力を教えてほしい。

自分たちが作ったものが、100年先のどこかの家庭で使われているかもしれない。そんな可能性を秘めたプロダクトに関われることが大きな魅力です。入社すれば、100年続くものづくりのすごさと、そこに携わる楽しさが実感できると思います。

今回、前後編に渡って高橋さんと細谷さんにお話を聞いたが、二人は「たのしい」という言葉を度々口にしていた。自分にとって「たのしい」人生を選び、歩み続けることで、その人らしい充実した時間を過ごすことができるのだろう。岩手の伝統は、彼らの「たのしい」とともに未来へ受け継がれていく。

及源鋳造に興味を持った学生にメッセージ

及源鋳造は、100年使える“安心で環境にやさしい鉄器”を作っている会社です。工場の仕事はアナログで男らしく、でもできた鉄器は繊細で美しい。一緒に、未来にむけて伝統工芸を進化させていきませんか?

■及源鋳造株式会社
1852年に創業し、南部鉄器の製造および販売を手掛けている老舗。メッセージに掲げる「愉しむをたのしむ」の言葉には、南部鉄器を使うことはもちろん、作り手が感じる“たのしさ”も含まれています。南部鉄器を通して人々の暮らしに新しい“たのしみ”を提案し、100年先の未来へとつないでいきます。

▼企業URL
https://oigen.jp/