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interview

100年前からある仕事/03

南部鉄器とともに“たのしい”毎日を作る【前編】

塗師、鉄器職人、染物師など、岩手には数百年前から変わりなく受け継がれている仕事がたくさんあります。ここでは、時代の変化に合わせながらも、伝統の技を大切に守り、継承してきた職人たちの仕事をフューチャー。岩手の手仕事に精通した「百年仙人」が案内します。

今回は、1852年に創業した奥州市の及源鋳造を紹介しよう。同社が手掛けているのは、岩手を代表する伝統工芸品の一つ、南部鉄器だ。170年以上、この地で鉄瓶や鍋、釜などさまざまなものを作り上げてきた及源鋳造。実際の製造現場を、入社7年目の職人、高橋大地さん(26)に案内してもらった。

こんにちは。皆さんもご存知の通り、南部鉄器は真っ赤に溶けた鉄を鋳型(いがた)に流し込んで作ります。その工程はさまざまで、最初はデザインや設計から始まり、鋳型を作り、鉄を流し込み、冷えて形になったものを研磨、塗装して完成となります。

ほう、最後に塗装を施しているのか。

サビや焦げ付きを防止するためのもので、以前は漆が使われていました。近年では漆が手に入りにくくなってきたため、カシュー塗料というカシューナッツの殻から抽出した油を活用した合成樹脂を使用しています。成分や仕上がりが漆と近く、塗布した鍋は食品衛生法に合格しています。

奥州市出身の高橋さん。「先輩たちから技術や知識を継承して、次の世代へつなぎたい」と語る

高橋さんは、どの工程を担当しているのかな?

私は鉄瓶や急須の鋳型を作る、造型機の操作を担当しています。入社後はさまざまな工程を経験したので、今はどの部門でも対応できます。

職人として一人前になるには、かなり長い年月が必要だと聞いたことがあるが…。

一連の工程を覚えることに、それほど多くの時間はかかりません。作業を習得するだけなら、おそらくほかの業種とあまり変わらないと思います。ただ南部鉄器の場合は、そこからが長いんです。

そこから、とは?

例えば、鉄瓶の空洞部分を作るために鋳型(いがた)と呼ばれる砂で作った型が必要になるのですが、この砂の調整がものすごく難しい。砂と水分をちょうどいいバランスで混ぜないといけないんです。水が少なすぎれば鉄を流し入れたときに崩れてしまうし、多すぎても美しい仕上がりにはなりません。もちろん砂と水の割合は数値化されていますが、実際に自分の手で握ってみたときの感覚は、季節やその日の天気によって微妙に変化するんです。

手のひらの感覚も、職人にとっては重要ということだな。

そうです。当社の商品は、鉄器の表面(鋳肌)の美しさが特徴の一つでもあります。だからこそ砂の調整が重要なのですが、これを完璧に理解するには相当の時間がかかります。実は私はこの作業が苦手で、一生かかっても理解できないんじゃないかって密かに思っています。

「仕事は一部分だけでなく、全体を通して楽しいと感じます」という高橋さん

高橋さんが及源鋳造に入社したきっかけは?

就活するとき、みんなとは違う道を選びたかったんです。鋳物屋は溶けた鉄を扱うというだけで大変そうだし、選ぶ人が少ないイメージだったので「じゃあ行って確かめてみよう」って思いました。

実際に入社してみて、どうだったかな?

思っていたよりも、全然平気でした(笑)。確かにラクな仕事ではありません。でもうちの会社はみんなの仲が良くて働きやすいですし、楽しいと感じることの方が多いです。

溶けた鉄を型に流し込む注湯(ちゅうとう)作業。このときの鉄の温度は、なんと1400℃以上!

この仕事には、どんな人が向いているだろう?

南部鉄器だけでなく、工芸の世界には知られていない価値がたくさんあります。それを今すぐ大勢の人に理解してもらうことは難しいので、工芸の未来のために少しでもより良い環境を作るのが重要です。この仕事に向いているのは、そういう意識を持てる人ではないでしょうか。あとは、工芸の世界を目指すなら長く働ける環境を見つけることも大切だと思います。

及源鋳造では1960年代から海外への輸出をスタート。今では世界中に、多くの“南部鉄器ファン”がいる

ふむ。確かに長く働けるのは良いことだが、工芸だからこその理由があるのかな?

工芸は短期間で、自分が求めているような成果を出すことはできません。例え才能があったとしても、時間をかけて磨き続けなければ表れてこないんです。自分も先輩の職人技を見て「これ、すげぇな」って思うことがたくさんありますが、それは20年、30年と続けてきたからできることなんです。だからこそ、長く働ける場所で自分の才能を伸ばしてほしいです。

なるほど!そうやってコツコツと積み重ねた技が、南部鉄器の新たな歴史を作っていくのだな。及源鋳造では先人たちが築いた伝統ある南部鉄器を守りながら、現代の暮らしに寄り添ったものも多く手掛けている。次回は鉄器づくりのデザインについて紹介しよう。

後編へ続く▶

及源鋳造に興味を持った学生にメッセージ

及源鋳造は、100年使える“安心で環境にやさしい鉄器”を作っている会社です。工場の仕事はアナログで男らしく、でもできた鉄器は繊細で美しい。一緒に、未来にむけて伝統工芸を進化させていきませんか?

■及源鋳造株式会社
1852年に創業し、南部鉄器の製造および販売を手掛けている老舗。メッセージに掲げる「愉しむをたのしむ」の言葉には、南部鉄器を使うことはもちろん、作り手が感じる“たのしさ”も含まれています。南部鉄器を通して人々の暮らしに新しい“たのしみ”を提案し、100年先の未来へとつないでいきます。

▼企業URL
https://oigen.jp/