interview
2024/9/19 掲載
100年前からある仕事/07
塗師、鉄器職人、染物師など、岩手には数百年前から変わりなく受け継がれている仕事がたくさんあります。ここでは、時代の変化に合わせながらも、伝統の技を大切に守り、継承してきた職人たちの仕事をフィーチャー。岩手の手仕事に精通した「百年仙人」が案内します。
日本における醤油づくりの歴史は古く、鎌倉時代の禅僧が中国から味噌の作り方を持ち帰ったのが始まりとされている。味噌を作る際、桶にたまった液体の香りや味が良かったため、醤油として用いられるようになったのだ。
今回は、日本人にとって馴染み深い調味料を作り続けてきた「八木澤商店」を紹介しよう。
河野社長。八木澤商店では、国産大豆などを使った醤油や味噌を作っているそうだな?
そうです。醤油づくりには、麹と塩水を混ぜたもろみを、発酵・熟成させる工程があります。このとき、ポコポコと発酵する音が聞こえてくることがあるんですよ。気温や湿度に左右される繊細な世界なので、とても難しい。でも、だからこそ面白いんです。
昔の職人たちも、その音を聞きながら醤油づくりをしていたのだろうな。八木澤商店が創業したのは、いつ頃なのだろう?
1807年の創業で、当時は酒屋をやっていました。
なんと、最初は酒屋だったのか。いつ頃から今の形になったのだろう?
第二次世界大戦の後からです。実は当時、お米は酒造りよりも兵糧米として使われていたため、全国各地で酒蔵が合併して規模を縮小していたんです。この地域では合併を機に新しい酒蔵を設立し、もともとあった蔵の多くは、酒造りと同じ発酵を生業とする味噌や醤油づくりに転身しました。
そういう歴史があったのだな。東日本大震災のときには、被災して大きな被害を受けたと聞いておるが…。
震災のときは、津波で本社も工場も全て流されました。今の本社が建っているのは、以前あった蔵の場所からかさ上げした、ほぼ真上になります。
味噌や醤油づくりには蔵独自の麹菌が欠かせないと聞くが、その点はどうしたのだろう?
震災の一ヶ月ほど前に釜石の水産技術センターから依頼され、研究のサンプルとして麹菌を提供していたんです。水産技術センターも被災しましたが、密閉容器に入れてあったものが奇跡的に見つかって、それを岩手県工業技術センターで培養してもらいました。
なんと! そのおかげで復活できたのだな。
当時は会社を立て直す決意をしながら、社員と一緒に救援物資を避難所に配るボランティアをしていました。麹菌が生き残っていたのはもちろんですが、信じてついてきてくれた社員がいなければ復活なんてできません。県内の同業者もみんな協力してくれましたし、本当にたくさんの人のおかげで今があると思っています。
人と人との強いつながりが、今の八木澤商店を作っているのだな。その八木澤商店に入社したばかりの二人が、こちらの若者たちかな?
村上智弥(むらかみ・ともや)です。今は醤油を充填する機械やタンクの洗浄などを担当しています。
普入千里(ふにゅう・ちさと)です。私は醤油を絞る「圧搾(あっさく)」の工程を担当しています。
二人とも19歳だそうだが、入社のきっかけを教えてくれるかな?
当社は入社前に必ずインターンシップを受けることになっていて、僕は2回参加しました。きっかけは本社が自宅から近いことでしたが、味噌づくりの工程に面白さを感じたことと、先輩たちが優しかったので、ここで働きたいと思いました。
私は細かい部分も丁寧に仕上げたくなるタイプなので、手作業で行う工程が多いことにやりがいを感じました。今は担当業務以外にも、いろんな部署を経験させてもらっているので毎日が楽しいです。
うんうん、二人の成長が楽しみだ! 河野社長、最後に今後の目標について聞かせてもらえるかな?
今は国内だけでなく、フランスやドイツなどのヨーロッパへ輸出もしていて、EU・HACCPの認定を受けた鰹節だけを使った無添加のだしも生産しています。実は、この鰹節を使ってだしを作っているのは、国内メーカーで当社だけなんです。今後は、さらに海外での売り上げを伸ばしていく計画です。
震災を乗り越え、守り続けてきた伝統の味。それが今では、国内外を問わず多くの人々から必要とされているのだな。これから先もずっとこの街で受け継がれていくよう、百年仙人も全力で応援しておるぞ!
(取材時期:2024年8月)
八木澤商店に興味を持った学生にメッセージ
私たちが日々営んでいる醸造業は、永い時間をかけて微生物と向き合い発酵の科学によって醸しだされた良質な商品を、お客様の健康と幸せを第一に考え、食べる喜びをお届けする仕事です。
ぜひ一緒にお仕事しませんか。
■株式会社八木澤商店
1807(文化4)年に八木澤酒造として創業。昭和20年からヤマセン味噌・醤油製造を開始し、全国醤油品評会では、度々、農林水産大臣賞を受賞しています。東日本大震災では壊滅的な被害を受けましたが、同業他社の協力を受け、発災から約2ヶ月で事業を再開。震災前のもろみを使用した「奇跡の醤」は、2015年度のグッドデザイン賞を受賞しています。