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interview

100年前からある仕事/01

伝統を受け継ぎ新たな味を生み出す南部杜氏

塗師、鉄器職人、染物師など、岩手には数百年前から変わりなく受け継がれている仕事がたくさんあります。ここでは、時代の変化に合わせながらも、伝統の技を大切に守り、継承してきた職人たちの仕事をフューチャー。岩手の手仕事に精通した「百年仙人」が案内します。

最近は、世界中にファンが広がっている「日本酒」。うまい酒はいい米と水から生まれるが、米どころ岩手も昔から酒造りが盛んな地域だ。

そこで今回紹介するのは、南部杜氏(なんぶとうじ)である。杜氏とは日本酒を造るときに現場を取り仕切るリーダーのこと。古来より岩手には南部杜氏と呼ばれる酒造り集団がおるが、技術の高さは国内トップレベル!兵庫県の「丹波杜氏」や新潟県の「越後杜氏」と並び、「三大杜氏」といわれるほど有名である。

かつて岩手では「どぶろく」という白く濁ったお酒が一般的だったが、江戸時代に大阪から来た杜氏が新たな醸造技術を伝えたことをきっかけに、清酒が作られるようになった。南部藩が酒造りを奨励したため杜氏たちはこぞって腕を上げ、その評判は日本全国に広まっていったという。

今も岩手では、20以上の酒蔵がおいしいお酒を造り続けているそうだ。

南部美人の最年少杜氏・林さん。「今年の仕込み作業は11月から本格化します」と教えてくれた

そんな南部杜氏の技を受け継ぐ若者が、二戸市におる。120年以上の歴史を持つ酒蔵「南部美人」で杜氏として活躍する林敬宏(はやしたかひろ)さん(33)だ。彼の実家は農業を営んでいて、最初は冬の間だけ南部美人の手伝いに来ていたそうだ。

「もともとお酒を飲むのが好きで、仕込み作業を経験したら造るのも好きになったんです。『ずっとここで働きたい』と思い、2年ほど前に入社しました」

社員として働き始めた林杜氏はメキメキと成長。2022年に岩手県新酒鑑評会で知事賞第1位に輝き、翌年は同鑑評会の知事賞第2位に加えて、第104回南部杜氏自醸清酒鑑評会で上位入賞を果たすなど、素晴らしい成績を残している。南部美人の歴史の中でも、異例の成長スピードというから大したものだ。

数々の受賞について「運が良かったです」と語る。この謙虚な姿勢が、おいしいお酒を生み出すのかもしれない

そんな南部美人の歴史は、明治時代の1902年から始まる。街の小さな酒蔵としてスタートし、三代目のときに岩手全域へ販路を拡大するとともに、「もっと良いお酒を造らなければ」と、南部杜氏の雇用を始めた。「南部美人」という名前が生まれたのもその頃で、かつて南部藩だったこの土地と、淡麗で美しい酒の味を美人になぞらえて命名したと聞く。今では50カ国以上の国々で販売されていて、日本を代表する銘柄の一つになっている。


南部美人で使用している原料米のサンプル。このうち特別純米酒には、二戸市で栽培した岩手県の酒米「ぎんおとめ」(写真右から2番目)を使用している

酒造りの工程は、洗って水を吸わせた酒米を蒸すところからスタートする。そうして蒸し上がった米の粗熱を取り、麹と水、酵母などを入れて仕込み、三段階に分けて少しずつ醪(もろみ)の量を増やしていくのだ。その後、低温でじっくり発酵させてから搾り、「火入れ」と呼ばれる加熱処理で殺菌して完成となる。

一つのお酒を造るのに、約30日という時間をかけているという。

「昔は蒸し上がった米を釜やタンクに移すのも、全て人の手で行っていました。布に15~16キロの蒸米を包んで、冷めないようにダッシュで運搬。それを何十回と繰り返していたそうです」と、林杜氏は語る。

先人たちの汗と思いが染み込んでいる本社蔵を、林杜氏はとても楽しそうに案内してくれた

そして今も昔も変わらないのは、麹造りの作業。これは蒸し上がった米を「麹室(こうじむろ)」に移動し、種麹を振りかけて保温、麹菌を米一粒一粒に行き渡らせ、それを小分けにした後、湿度を調整した部屋「枯らし場(からしば)」で乾燥させるというもので、一週間ほどかけて行う。これにより日本酒の原料となる麹を造るわけだが、麹の働きによってお酒の味や風味が左右されるため、麹造りは非常に重要で神経を使う工程だ。積み重ねた麹蓋の位置によって微妙に温度と湿度が変わるため、夜も2時間おきに積み替えなければならないという。(現在、南部美人では麹蓋を使用した麹造りは全量ではなく、一部のお酒の仕込みの際に行われている)

なかなかハードな仕事だが、林杜氏は「確かに大変だけど、終わった後の達成感や充実感はハンパないです」と言って笑顔を見せる。

麹を造るために使う伝統的な麹蓋(こうじぶた)。麹室の中では、麹を盛って積み重ねた麹蓋を夜通し入れ替えていく

「杜氏としてみんなと話し合いながら試行錯誤し、「和醸良酒」と「品質一筋」を合言葉に良い酒を醸していきたい。誰にでもできる仕事ではないし、この環境に身を置いていられること自体がとても幸せです」そう語る林杜氏は、これからどんなお酒を生み出していくのだろう。岩手の新たな酒造りを担う若い杜氏の活躍が楽しみだ。

南部美人に興味を持った学生さんにメッセージ!

飲めるお酒の量に関わらず、お酒に興味を持っている方を歓迎します。また、伝統産業でありながら、伝統にとらわれない社風なので、挑戦することが好きな方、創造に興味のある方はぜひ一度南部美人の「いま」を体感しに二戸にお越しください。

■株式会社南部美人
「品質一筋」を家訓とする久慈家が5代に渡り守り続けている酒蔵。南部杜氏の技と美しさを追求した酒は世界からも認められ、国内外を問わず多くの賞に輝いています。日本酒と特許技術を用いて製造している糖類無添加リキュールに加え、近年ではコロナ禍を契機に発売した消毒用アルコールから派生したクラフトジンやクラフトウォッカ、2023年からはジャパニーズウィスキーの製造も手掛けています。「お酒」は昔から冠婚葬祭と切っても切り離せない存在として、また、人と人とをつなぐツールとして世の中にあり続けてきました。コロナ禍を経て時代は移り変わっても、南部美人はこれからも飲む人に寄り添うお酒であるために「品質一筋」にこだわり続けます。

▼シゴトバURL
https://www.shigotoba-iwate.com/kyujin/company/84000010078470