interview
2025/10/27 掲載
STARTUPアドベンチャー/09
起業した人はどんなことを考えているの?「想いをカタチにする」ってどうすれば? 今回ご紹介するのは、盛岡市にオフィスを構える株式会社COCOHARETE(ココハレテ)。旅行業界で培った知見を活かし、新たな観光サービスを立ち上げようとしています。
混雑する駅の構内で、ふと目に止まったのは、車椅子に乗ったお年寄りの女性と、その娘であろう2人の姉妹。一人は車椅子を押し、もう一人は3人分の大荷物を抱え、移動するのも難儀な様子……。
この光景を目にして、「荷物の負担を減らすことができたら、もっと旅行を楽しめるのに」と考えた人がいます。株式会社COCOHARETEの代表を務める佐羽根博一(さばね・ひろかず)さんです。
岩手県宮古市出身の佐羽根さんは、「故郷に多くの人を呼び込みたい」という想いから、大手旅行会社に入社。旅行の企画・営業に携わりながらキャリアを重ねる中で、商店街の活性化や廃校活用、広域連携による地域ブランドの創出など、観光振興を通じた地域活性化事業を数多く手掛けてきました。
「もともと地域を活性化したいという想いが、自分の出発点。会社の枠にとらわれず、もっと自由にやりたいことに挑戦したいと思い、起業を意識するようになりました」と、当時を振り返ります。
起業する際に役立てようと、働きながらビジネススクールで経営学を修めた佐羽根さんは、意を決して旅行会社を退職。観光の側面から地域課題を解決することをミッションに掲げ、2021年にCOCOHARETEを創業しました。

起業当時、佐羽根さんが描いていたのは、観光コンテンツを開発する事業と地方創生に関わる事業の2本立て。しかし、資金もない小さな会社がすぐさま成功できるほど、現実は甘くはありません。いくつかのプロジェクトが頓挫する中、「とにかく実績をつくろう」と、国の観光関連の事業を地道に獲得し、実績を積み上げていきました。
「自分の強みは、旅行会社で培ってきた[観光の知見]と、経営学をベースとした[サービスの価値づけ]。そして、サービスの特性を踏まえた上で[観光体験の設計]ができることです。どういうことかというと、人が介在して体験するものには、必ずサービスが入っていますよね。お客様に説明する、安全に配慮するといった行為もサービスに含まれるわけですが、その一つひとつの価値を意識して高めていくと、旅行者の満足度が上がります。こうしたサービスを組み立て、観光体験などを開発するのがこれまでの仕事でした」。

とはいえ、これまでの延長線上の仕事に甘んじていては、思い切ったビジネスは展開できない……。悩んだ末に、佐羽根さんが舵を切ったのは、旅行者を支援するサービスの開発事業でした。
冒頭に登場した車椅子で旅行する家族の様子を見てひらめいた佐羽根さんは、障がい者を含む家族旅行者の手荷物の負担を軽減するサービスに着目。アパレルメーカーや古着屋などと連携し、滞在期間中の衣類を宿泊先で受け取れる『ビットバゲッジ・ネオ』というレンタルサービスを開発しました。

「手荷物の中身の約7割を占めるのが衣服です。これを大幅に軽減できれば荷物自体を格段に減らせますし、コインロッカーの利用も、キャリーバッグを引いて街中を移動する負担もなくなります。帰宅後の面倒な洗濯からも解放されますので、より快適に旅行を楽しんでもらえます」。
この『ビットバゲッジ・ネオ』は、盛岡市がスタートアップ企業のために主催する「2024年盛岡アクセラレータープログラム」に採択。現在、サービスの有効性や問題点を検証するため、社会実験を行う準備を進めているところだといいます。

「私がこのサービスで実現したいのは、物理的な荷物の軽減はもちろんですが、身体が不自由であっても気軽に旅行に出かけられる喜びです。旅行に行けなかった人が行けるようになったり、数年に1回だった旅行が年に1回行けるようになったら、嬉しいじゃないですか。これまで私は旅行者を迎え入れる地域側に立って仕事をしてきましたが、旅行者の課題を解決することによって、新たな需要を喚起することもできるのではないかと思っています」。
B to Cの旅行者への支援サービス事業と、B to Gの自治体などと連携したDMC事業、そして今後取り掛かる予定のB to Bのアップサイクル事業。地域側と旅行者側の2つの視点を持ちながら、この3本柱を軸に観光や旅行者の課題解決に取り組もうとしています。
「観光に関わる仕事をしていると、本当にたくさんの課題にぶつかります。そうした課題を解決するためには、現場に行って現地の人の話をよく聞き、その一方で新たな知見を広げる努力を重ねることが大切です。そうして、さまざまな「知」を組み合わせることで、初めてイノベーションを起こすことができるんです」。
荷物の軽減をはじめとした旅行者が抱える課題は、世界共通であり、インバウンドビジネスにカテゴライズされるもの。『ビットバゲッジ・ネオ』は、2026年度中の発表に向けて準備を進めている段階ですが、「国内にとどまらず海外に向けて輸出していきたい」と、佐羽根さん。岩手発の「サービスのグローバル化」を目指し、COCOHARETEの挑戦はまだ始まったばかりです。
(取材時期:2025年9月)
佐羽根さんから学生さんへメッセージ!
学生の皆さんが生きている世界は、まだまだ小さく、とても狭いものです。学生のうちにぜひトライしてほしいのは、今いるところからできるだけ遠くに出かけ、できるだけ自分から遠い「知」を吸収することです。自分の生活圏にとどまっているだけでは、何も知り得ないし、何も育ちません。行ってみたいと思ったところに行って、たくさんの人と会って、さまざまな経験をしてみてください。今、学生として持っている「知」と新たに吸収した「知」を組み合わせることで、新しいことが生まれてくるはずですから。

■株式会社COCOHARETE
東北の観光振興に寄与するビジネスを展開し、地域経済の活性化に貢献することをミッションに掲げ、2021年6月に創業。地域固有の資源を活用した観光開発や、高付加価値型の観光体験の企画、旅行者の課題解決につながるサービスの開発などを通して、「まだ見ぬ日本に出会う、体験価値を創出し続ける総合地域商社」を目指しています。
▶︎企業URL
https://coco-harete.com/





