みんなの想職活動

interview

2025/9/2 掲載

STARTUPアドベンチャー/08

生きづらい社会への違和感が起業のヒントに

起業した人はどんなことを考えているの?「想いをカタチにする」ってどうすれば?岩手で活躍する起業家である、株式会社HUGの坊迫舞香(ぼうさこ・まいか)さんにお話を伺いました。

宿泊施設の運営やイベント企画を手がける株式会社HUGを、2023年に花巻市田瀬地区で立ち上げた坊迫舞香さん。2020年に仕事で初めて花巻を訪れたとき、まちの人や土地の魅力に心奪われ、ここで起業することを決意。ゆかりのなかった岩手で坊迫さんを突き動かしたものは、何だったのでしょうか。

学生時代の坊迫さん(左)。海外旅行や留学など、知らない世界に飛び込んだ経験が挑戦することへの自信につながりました

10代でアルゼンチンへ留学、学生時代には旅先として20カ国以上を巡ったという坊迫さん。学生時代の就職活動では、こんな違和感を抱いていたのだとか。

「黒スーツに黒髪が当たり前の面接。個性を求められるのに、型にはまることが必然で。その矛盾が、どうしても飲み込めなかったんです。社会の“正解”に自分を合わせることに、生きづらさを感じていました」

社会のルールに息苦しさを感じている人たちが、ありのままの自分でいられる場所をつくりたい——。違和感と向き合うなかで浮かんだのが、“自分が運営できる最小単位のコミュニティ=村をつくる”というアイデアでした。夢の輪郭の一部が、見えはじめた瞬間でした。

大学卒業後、メキシコの物流会社で1年半働いた坊迫さんは、東京の地方創生事業に取り組む企業に転職。2020年、仕事で初めて訪れた花巻でこんなふうに感じたといいます。

「古き良きものが残り、手つかずの自然が息づいていました。何も手が加えられていないからこそ感じられる、素朴な豊かさに心をつかまれ “ここで村をつくりたい”と思ったんです」

その思いを花巻の方に伝えると、「じゃあ、あなたが村長だね」と背中を押してくれる人に出会いました。その後プライベートでも花巻に足を運び、自然と人の暮らしが溶け合う田瀬地区に惹かれ起業を決意。地域おこし協力隊として、翌年に移住を果たしました。

「任期3年という期間が、起業をする上でよい準備期間になった」と坊迫さん

自分らしさに悩む人たちが、“自分らしく”活躍できる場をここからつくっていきたい——。そんな思いを胸に、坊迫さんは理想とする村づくりをスタート。田瀬湖を望むエリアを自ら開拓し、その一帯を自身の名前にちなんだ〈ぼうまい村〉と名付け、野外フェスや農業体験イベントなどを企画。花巻市から車で40分ほどの奥地にもかかわらず、県内外から多くの人が訪れ、新たな交流が生まれました。

ロッジから見える田瀬湖。滋賀県出身である坊迫さんの、お気に入りの景色

2025年6月には、〈ぼうまい村〉に古民家を改装した宿泊施設〈クモ・ロッジ〉をオープン。今までの経験を生かしながら、宿泊してくれた方の趣味嗜好に合わせたオーダーメイドの岩手観光プランを提案し、喜びがつながっていく瞬間のお手伝いをしたいと新たな試みに挑戦しています。

一方で、その裏側では、こんな苦労があったのだと振り返ります。

「ロッジを改築するのにかなりの費用がかかったんですが、運転資金や実績が乏しくて、はじめは融資も受けられなかったんです。前職時代にお世話になった会社に相談して、副業という形で再び働かせてもらいながら、1年間必死に働いて必要資金の半分を自己資金として集めました。“私は他でもちゃんと稼げる”という実績を数字で証明できたことで、融資も受けられるようになりました」

残りの資金は、国・自治体・商工会など多岐にわたる補助金制度をチェックし、花巻市で申請例がないものにも挑戦。「職員の方にはいつも面倒なものをもってくるな~と笑われていましたね。でも、申請を通すためにほかの自治体に事例を確認してくださったり、献身的になって調べてくださったりして。本当に人に恵まれています」

ロッジオープン日には、東京や長野から坊迫さんの仲間が駆けつけました

その行動力と高い志で、常に風を起こし続ける坊迫さん。最後に、夢を叶えるための心構えをこんなふうに教えてくれました。

「身近な人の言葉は影響力があるので、決断したら周りに話す前にとにかく行動してきました。自分以外の声を聞くことも大切ですが、それを全部聞き入れていると動けなくなるので。あとは調子が上がらないときは、潔く休むようにしています。私は体を動かして汗をかきたくなるのですが、そういう衝動が出るのはストレスが溜まっているシグナルでもあるんですよね。こうやって、調子が悪いときの理由を考えるようにしています」

ゼロから会社を立ち上げるということは、決断力や推進力、忍耐力、セルフコントロール力などエネルギーと自律性が必要です。走り続けるために、モチベーションを下げないための努力も怠らない坊迫さんの姿には、夢を形にするためのヒントがたくさん詰まっていました。

(取材時期:2025年6月)

坊迫さんから学生さんへメッセージ!

私の大好きな本の一節に『おまえが何かを望むときには、宇宙全体が協力して、それをたすけてくれるのだよ』というのがあります。他人と違った道を選択したり、自分の夢を追いかけ続けるのは怖いです。でも自分でやると決めて行動し続ければ、思った以上に世の中は自分が思った方向に進んでいきます。自分を信じて一歩踏み出すことが大事。進めばなんとかなる!

■株式会社HUG
花巻市田瀬地区で宿泊施設の運営、イベントの企画実施等を手掛ける会社。“誰もが自分らしく生きられる場所”をモットーに、田瀬地区の一部を開拓し〈ぼうまい村〉を設立。同エリア内では古民家を再生したロッジがオープンし、県内外の人々の交流を生み出す、新たな観光・交流拠点として期待されています。

▶︎企業URL
https://kumolodge.com/