みんなの想職活動

interview

2025/8/8 掲載

STARTUPアドベンチャー/07

どんな困りごとも解決する地域の「なんでも」屋さん

起業した人はどんなことを考えているの?「想いをカタチにする」ってどうすれば?山あり谷ありの起業ストーリーに迫るべく、岩手で活躍する起業家をご紹介。今回は、合同会社イチカラ代表の小田 勝宣さんにお話を伺いました。

岩手県岩手郡岩手町に拠点を構える、合同会社イチカラ。

岩手町のふるさと納税返礼品の開発や地域おこし協力隊の活動支援・募集を担当しているほか、イベント企画・運営などを行う、まちづくり会社です。

代表を務めているのは、神奈川県出身の小田 勝宣(おだ・かつのり)さん。

どのような経緯で会社を設立することになったのでしょうか。

インタビューは、小田さんが事務所を構える「岩手町フューチャーセンター」で行いました。岩手町フューチャーセンターは、町の起業・創業拠点で、コワーキングスペースやフリースペースなどを併設している施設です。

「もともと縁もゆかりもなかった」という岩手町に小田さんが移住したのは、地域おこし協力隊として着任したことがきっかけ。

2022年4月から岩手町で教育事業を行う地域おこし協力隊としての活動を始め、小中学生向けの英語塾の運営のほか、高校の授業や公民館での子ども向け事業にも携わってきました。

「主に教育に関わる取り組みを中心に活動していましたが、『地域おこし協力隊』という立場だったこともあり、もっと地域全体に貢献できることにも取り組みたいと考えるようになりました。そこで、地域の方から寄せられた困りごとを解決するための活動も行っていたんです。そうした経験を通して、教育に限らず、より広い視点でまちづくりに関わるようになりました」

楽しく勉強できる英語塾をテーマに、「いわてまち英語教室」の運営を行っている小田さん。着任時は40人という目標を立てていた生徒数に対して、最大で60人が在籍。現在も岩手町内3箇所の公民館を利用して、英語教室を開催しています。

小田さんが初めて地域の方から相談を受けて行った取り組みが、ゴミ拾いサークルの運営。「まちにゴミが多い」というまちの人の声をきっかけに、ゴミ拾いサークルを立ち上げ、地域の人たちに声をかけると多くの参加者が集まったそう。

「想いに共感してくれた人が集まって、一緒にまちのために行動する。そうした活動をみんなが楽しそうに、おもしろがってやってくれている状況を見て、自分が感じている課題やまちの人の困りごとを、『まちづくり』という動きで解決していけるんじゃないか、これからなにか新しい動きを始められるんじゃないかと考えるようになりました」

以来、小田さんにはウェブサイト制作やイベントの企画、家の片付け作業まで、さまざまな相談が届くように。

地域の困りごとに耳を傾け、「なんでも屋さん」として活動を続けてきた経験をもとに、そうした取り組みをより本格的に事業として展開できるようにと、2024年6月に合同会社イチカラを設立しました。

「会社を設立してから、頼ってくれる人がより増えてきているんです。起業することで、自分の覚悟をまちの人に示すことができて、みんなが応援してくれているのをすごく感じています」

ゴミ拾いサークルには、毎回10人程度の人が参加。参加者同士が交流しながら、清掃活動を行うことで単純なゴミ拾いではなく、まちに対する愛着を育むきっかけづくりにも繋がっていると小田さんは話します。

現在は主に、9名在籍する岩手町地域おこし協力隊の活動サポートや、地域の農家・企業と一緒にふるさと納税返礼品の開発などを行っている小田さん。

岩手町でのまちづくりに関わる事業を「世界の最先端の課題への挑戦」と捉えているといいます。

「世界の中で見ても、少子高齢化や人口減少は日本の地方が一番深刻化している。見方を変えると、日本の地方が世界の中で初めてそうした課題に向き合っているとも考えることができます。だからこそ、その地方で課題解決に取り組むことができるのは、世界の最先端でチャレンジができるということだと思っているんです。誰も経験したことがないことに挑戦できる、とてもやりがいのある環境ですよ」

現在は、製品をさまざまな病院・施設に導入するために、医療機器としての承認手続きを行っている段階。まだ販売はできませんが、病院で試験的な使用を行っているといいます。

岩手町のふるさと納税の返礼品になっている「はきはき美人」という和箒づくりの様子。地域で育てたホウキモロコシを使い、一つひとつ丁寧に仕上げられる和箒を通して、地域資源に光をあて、その魅力を町外へ発信する取り組みにも力を入れています。

今後の目標について、「課題解決の成功事例を増やし、岩手町が他市町村の模範になるようなまちづくりを行っていきたい」と語る小田さん。

日本全国、さらには世界への広がりも視野に入れながら、地域での活動一つひとつに丁寧に取り組み、より一層地域の方々に信頼される企業になることを目指しています。

「自然が豊かで、住みやすい環境が整っているのはもちろん、農業や林業といった一次産業が盛んなのも岩手町の大きな魅力です。ここで育つ野菜や果物などの素材のよさを活かして、これからさらに新しい取り組みを考えていけるという意味で、ビジネスの可能性にも恵まれていると思っています。

そして何より、地域の方々が本当に温かくて、いい人たちばかりなんです。これからも『なんでも相談していいんだ』と思ってもらえるような存在を目指して、みなさんの困りごとに寄り添い、解決につながる取り組みを続けていきたいです」

まちの人たちの頼れる存在であり続けるために、どんな相談にも真摯に向き合い、地域のために行動し続ける。小田さんの姿からは、これからのまちづくりの可能性が、確かに感じられました。

(取材時期:2025年7月)

小田さんから学生にメッセージ!

変化のスピードが加速し、情報があふれる今の時代。簡単に多くの知識に触れられる一方で、それが二次情報や誰かの意見に過ぎないことも少なくありません。だからこそ、実際に現場に足を運び、自分の目で見て、対話をして、肌で感じた「一次情報」を大切にしてほしいと思います。そして、得た学びを机上の空論で終わらせず、小さくてもいいから行動に移していくこと。その繰り返しが自分を成長させてくれるはずです!

■合同会社イチカラ
イチカラは、岩手県岩手郡岩手町に拠点を構える小さなまちづくり会社です。「イチから、チカラをあわせて、まちづくり」を合言葉に、地域の困りごとを解決するための取り組みや地域の事業者のサポートを行っています。

▶︎企業URL
https://iwate1kara.jp/