みんなの想職活動

interview

2025/6/26 掲載

100年前からある仕事/09

岩手が誇る日本一の手仕事「ホームスパン」

塗師、鉄器職人、染物など、岩手には数百年前から変わりなく受け継がれている仕事がたくさんあります。ここでは、時代の変化に合わせながらも、伝統の技を大切に守り、継承してきた職人たちの仕事をフィーチャー。岩手の手仕事に精通した「百年仙人」が案内します。

羊毛を紡ぎ、丁寧に織り上げていくホームスパン。「家(home)で紡いだ(spun)」という意味を持ち、アイルランドやスコットランドが発祥とされている。明治時代に日本へ伝わり、岩手県でも多くの人がホームスパンの生産に携わった。今回は、そんなホームスパンを作り続けている「みちのくあかね会」を紹介するぞ。

ホームスパンは「岩手で脈々と受け継がれている手仕事」というイメージがあるが、どんな手順で作られるのだろうか?

まずは製品に合わせて羊毛を染める「染色」をします。その後、大まかに毛を解いてから繊維の方向を揃える「カーディング」を施し、同時に混色も行います。染めた羊毛の混ぜ方も、デザインを作る上で重要な要素になるんですよ。


大学時代は染織を学び、30代で「みちのくあかね会」に入社した渡辺未央さん。現在は事務や商品のデザインなどを担当している

なぜ染めた後で混ぜるのだろう。最初から希望の色で染めた方が楽ではないか?

混ぜ具合によって色に変化をつけることができますし、繊細な色のバランスがホームスパンの魅力でもあります。そうして目指す色に仕上がったら、糸を紡いで機織りの工程に入ります。織り上がったものをお湯で押し洗いする「縮絨(しゅくじゅう)」をして布地を整え、最後にアイロンをかけたら完成です。

こんなに膨大な作業を、すべて手で行っておるのか?

その通りです。当社は分業制を取り入れていて、羊毛を染める人、糸を紡ぐ人、機織りをする人など、専門のスタッフが並行して作業を行っています。


工房にはいくつもの機織り機が並び、熟練のスタッフが黙々と作業を進めていた

どの工程も高い技術と経験が求められると思うが、とりわけ難しい作業はどれだろう?

一概には言えませんが、特に糸紡ぎは慣れるまで時間がかかると思います。ホームスパンは、空気を含んだように軽くて暖かいのが特徴です。そのため、糸を強くよってしまうと固い仕上がりになりますし、弱すぎても良い商品にはなりません。手作業なので微妙なゆらぎはありますが、均一な糸を紡ぐ技術が必要になります。


指先で調整しながら、まるで糸と会話するように紡いでいく

ここで働いているスタッフは、どんなきっかけでホームスパンの世界に入ったのだろう?

人それぞれですが、当社の工房や盛岡手づくり村で行っている製作体験を経て、「やりたい」と言ってくれる人もいます。定期的に求人を出しているわけではありませんが、「手仕事が好き」という共通の思いを持った仲間が集まっています。


カラカラ、パタンと小気味良い音を立てながら均一に織り上げる

ホームスパンにはどんな魅力があるのだろう?

すべての工程が手作業なので、作り手としては自分の手でものを生み出す喜びがあります。また、ホームスパンは羊毛で作られているので、熱や摩擦の影響で5年、10年と経つごとに少しずつフェルト化していくんです。そうした経年変化を楽しみながら、自分だけの風合いに育てていけることも大きな魅力だと思います。


完成品のマフラーは驚くほど軽く、暖かい。渡辺さんいわく、「盛岡の冬を乗り切るならホームスパンです」とのこと

最近は若い世代にも注目されていると聞いたぞ。

ストーリー性のあるアイテムを求める人が増えているようで、ホームスパンの魅力が伝わることは本当に嬉しいです。今後はデザインの幅を広げつつ、先輩方から受け継いだ技を未来へつなげていくことが目標です。

伝統の技は、人々にとって必要だからこそ受け継がれてきたのだろう。失って初めて大切さに気付く未来ではなく、「受け継いで良かった」と思える未来のために、百年仙人もホームスパンを愛用し続けるぞい!


(取材時期:2025年5月)

みちのくあかね会に興味を持った学生にメッセージ!


ホームスパンは、かつて東北や北海道を中心に盛んに行われていました。しかし時代とともに機械化が進み、現在、産地と呼べるのは岩手県のみとなっています。私たちの願いは、ホームスパンの魅力を多くの人に伝え、未来へつないでいくこと。ぜひ学生の皆さんにも、興味を持っていただければ嬉しいです。

■株式会社みちのくあかね会
第二次世界大戦後の1958(昭和33)年に、戦争で夫を亡くした女性たちの働く場所として「盛岡婦人共同作業所」を発足。その後、「株式会社みちのくあかね会」を設立し、女性たちが作ったホームスパンを販売。現在も女性のみで構成され、マフラーやストール、小物などを製作しています。

▼企業HP
https://www.michinoku-akanekai.com/