interview
2025/3/24 掲載
こんな仕事があるのか岩手/14

「地方は仕事が少ない…」と思っているとしたら、それ、誤解です。岩手には意外な職種や面白い仕事がいろいろあるんです。今回ご紹介するのは、さまざまな漁具を提供しながら「三陸の漁業者をサポート」する仕事。アサヤ株式会社・釜石支店にお邪魔して、仕事のあれこれを取材してきました。
世界三大漁場の一つであり、漁業が盛んな地域として知られる三陸エリア。複雑な地形を利用してカキ、ホタテ、ワカメなどを育てる養殖や、定置網漁、はえ縄漁、まき網漁、底曳き網漁など、さまざまなやり方で漁が行われています。しかも同じ漁法であっても、使う漁具がみんな同じとは限りません。例えば漁網、これだって網目の大きさや太さ、色など、漁場の特性や狙う魚種によって漁師さんが使うものはバラバラ。それぞれのやり方やこだわり方でも違うのだといいます。
こうした漁師さんたちの要望に合わせて、3万点以上もの多種多様な漁具を取り扱っているのが宮城県気仙沼市に本社を置くアサヤです。創業は、1850(嘉永3)年。江戸時代から続く老舗の漁具屋として、岩手・宮城にまたがる三陸地域に根ざし、漁具の販売から機械の修理・メンテナンス、船の塗装、漁網の仕立・修理まで、幅広く手がけています。

いうなれば、「海のなんでも屋」的なポジションにあるアサヤですが、事業の柱となるのが漁船漁業・養殖漁業・定置漁業の3部門。それぞれ専門が異なるため取り扱う製品も違い、支店によっても特色が異なります。例えば宮古支店は定置と養殖、石巻支店は養殖というように、エリアの漁業形態に合わせて扱う分野が変わるのだそう。今回取材した釜石支店は、定置と養殖を重点的にサポートしています。
「私は定置の担当ですが、うちの会社の営業ってちょっと変わってるんですよ」と教えてくれたのは、釜石支店の佐々義光さん(40)。営業というと製品販売が中心のように思えますが、どんなところが違うのでしょうか?
佐々さんが担当する定置網漁とは、海中の決まった場所に大きな網を設置して、網にかかった魚を獲る漁法のこと。定置網は全長数百メートルにも及ぶ大きな仕掛けで、漁場や魚種によっても使う網が異なります。こうした資材の販売を中心に、水中ロボットを使った漁場調査、網の設計・仕立・修理の見積りのほか、年に1回ほどは網を回収して、海藻などの付着物を防ぐための防汚加工作業などを担当しています。

佐々さんは4漁業者8ケ統の定置網を担当していますが、製品を届けるだけで終わるような仕事はほとんどなく、漁具に付随するさまざまな相談や要望が舞い込むのだとか。
「注文がある・ないに関わらず、毎日お客さんから電話が来ますし、一日一回は顔を出します。世間話をしながら情報交換をするって感じですかね。自分の専門外の養殖の相談を受けることもありますし、機械の修理をお願いされることもある。お客さんにすればコイツに頼めばなんとかしてくれるだろうって話を振るわけですから、営業っていうより漁師さんの専属サポーターって感じですね」と、佐々さんは笑います。

「困ったらアサヤ」と頼りにされている佐々さんですが、仕事で心がけているのは、顧客の要望に全力で対応すること。依頼があれば専門外であろうと勉強して新たな知識を身につけ、軽い故障なら自ら修理もこなせるよう技術を磨く。そうした要望の数々に応えていくうちに、できることが増えていくのだそうです。
「本当にいろんな相談が来るんで、なんでも知っていないといけないから大変です。たまに無理難題(笑)もありますが、絶対クリアしてやろうと思って必死になる。そのおかげで自分も成長できるし、お客さんに育ててもらっているんだなって思いますね」。

漁具や漁業に関する知識・技術を身につけることはもちろんですが、営業で最も大事なのは漁業者との関係づくり。「コイツなら安心して任せられる」という信頼感と、「頼りにしてもらっている」という責任感が、互いの関係をさらに強くしていきます。とはいえ、若い社員ではそう簡単にはいかないのでは?
「漁師さんは船上での危険を避けるため、相手にすぐ伝わるように率直な物言いをする人がほとんど。最初はびっくりするかもしれないけど、ひとが好きなら大丈夫。慣れるまでちょっと時間はかかりますが、コミュニケーションが取れて、少々のことではへこたれないメンタルがあれば最強です!」と、佐々さん。
最初は先輩について顧客の顔を覚え、仕事を学びながら徐々に営業として自立していくのが、アサヤのスタイル。わからないことがあっても、なんでも先輩に相談できる和気あいあいとした雰囲気も会社の魅力だと、佐々さんはいいます。
三陸の漁業を守ることを使命とし、東日本大震災の時も必死で漁師たちに寄り添い、要望に応え続けてきたアサヤ。その看板を背負って立つ営業の仕事は、単なるモノのやり取りを超えた、ひと対ひとの絆を結ぶ仕事でもあります。
職場では、スーツもネクタイも、堅苦しい遠慮も一切なし。おおらかな海と漁師たちと一緒に、三陸の漁業を支える仕事は、きっとあなた自身を大きく成長させてくれるはずです。
(取材時期:2025年2月)
アサヤに興味を持った学生さんにメッセージ!
三陸の海を舞台にやりがいをもって活躍できる、とても面白い仕事です!「社員が主役」という経営理念を掲げ、社員一人一人が人生の主役として、仕事を通して幸せになれることを目指しています!

■アサヤ株式会社
1850(嘉永3)年創業。「漁民の利益につながる、よい漁具を」の理念のもと、漁業家の役に立つ漁具・船具・漁業資材・漁ろう機械などを提供しています。気仙沼本社を中心に、宮古・釜石・石巻に営業拠点を構え、漁船漁業・養殖漁業・定置漁業の3部門で事業を展開。他の事業者が諦めたとしても、アサヤだけは最後まで諦めずに、三陸の漁業を守るという強い信念で、漁業者を支えています。
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