interview
2024/12/6 掲載
世界に推したい企業/09
感染症関連の検査薬の開発で大きな注目を集め、波に乗る企業が盛岡にあります。医工連携でさまざまな研究開発に取り組み、革新的な技術で社会にインパクトを与えているセルスペクト株式会社です。彼らが見据えるマーケットは、国内に止まらず、世界へと広がっています。
●医学×工学で新たな検査技術を発明
●医療・健康分野にイノベーションを起こす
●次なるマーケットはアジア・中東
2020年、新型コロナウイルス感染症が蔓延している頃、医療逼迫や医薬品が不足したことを覚えていますか。
そんな最中、検体を採取するだけで簡単かつスピーディに検査ができる日本製の抗原検査キットが登場。厚労省の承認が得られた信頼できるアイテムとして、全国の医療機関や自治体に供給され、日本中の多くの人が利用しました。
これは一例に過ぎませんが、一般から研究機関まで幅広い対象に向けて、ディープテック(革新的な技術)による新しい臨床検査システムの開発・製造・販売を手掛けているのが、盛岡市のセルスペクトです。
「ものを作るより調べるほうが好きな少年だった」と語るのは、代表取締役兼CEOの岩渕拓也さん。一関高専で分析化学を学び、慶應義塾大学医学部のフェローとなって診断薬メーカーと研究を重ねたのち、2010年に最初の会社であるメタロジェニクスを創業。医薬品メーカーに新しい体外診断薬のライセンスを売却するなど大きな成果を収めました。
しかし、特化した市場に限界を感じた岩渕さんは、地元の岩手県で医療機器産業が盛り上がっていることを知り、Uターン。2014年に盛岡市にセルスペクトを立ち上げ、検査事業に乗り出したのです。
「新しい検査技術を開発すると、次々と新たな検査が行われるようになります。すると未知のことが明らかになったり、さまざまな病気との関連性も浮かび上がってくる。つまり、一つの検査技術の発明で新たな学問分野がつくれるほど、その波及効果は絶大なんです」
岩渕さん曰く、医学分野における分析化学的なアプローチはまだまだ未開拓。医学の知見をベースに、先端工学によって開発される検査技術には、無限の可能性がある。特に社会に貢献する意義は大きく、新薬の開発に近いインパクトがあるといいます。
冒頭の新型コロナウイルス感染症をはじめ、がんや生活習慣病に関わるリスクを調べられるキットや検査サービスなど、セルスペクトはさまざまなプロダクトを開発していますが、その一つに、簡単に血液検査ができるPOCT(Point Of Care Testig)のキットがあります。
これは一滴の血液で総コレステロールや中性脂肪値、血糖値など、多くの検査項目をわずか数分で計測できるもの。この検査結果をスマホに取り込み、アプリを活用して健康経過を調べられる仕組みをつくるなど、ものづくりとソフトを一体化させた事業にも着手しています。
「私たちは検査プロダクトの開発に伴い、さまざまな特許を取ってきました。特許というのは “考え方の発明”なんです。エジソンの電気のように、社会の構造や仕組みが変わるくらい影響力があるもの。私たちが目指しているのも、医療やヘルスケアの分野にイノベーションを起こすことです」と、岩渕さん。
これまでの常識にとらわれず、異なる学術分野を融合させながら、新たな技術でさまざまな社会課題の解決に取り組むセルスペクト。設立から10年が経った今、次に見据えているのは医療インフラがまだ整っていない新興国のマーケットです。
コロナ禍で一度中断したものの、中東の世界企業であるアブドゥル・ラティフ・ジャミール商事と資本提携を結び、中東地域での検査サービスの展開をはじめ、アジアやアフリカなども視野に入れて準備を進めています。
「どんな成功にも偶然はありません。タイミングを見定める経営的判断と、それを実現できる体制づくりの両方が必要。いつでも走り出せるように、普段から最良のコンディションを整えておくこと、それが大事なんです」
(取材時期:2024年9月)
セルスペクトに興味をもった学生さんにメッセージ!
学生なのに「即戦力になります」なんて、しょぼいことは言わないでください。小さな夢しか持てないと、小さい大人にしかなれませんよ。学生のうちは自分の価値観の中で、できるだけ最大限の夢を描いてみてください。そうすると自ずと取るべき行動が見えてきます
■セルスペクト株式会社
医工連携によるヘルステックを推進する体外診断薬メーカーとして、2014年に設立。ディープテックを駆使できる研究開発センターと衛生検査所とを併設し、さまざまな検査キットや検査サービスを開発。医療用、一般向け製品のほかに、研究用検査キット製品による学術・医学研究のサポートや、臨床検査事業なども手掛けています。
▶︎企業URL
https://www.cellspect.com/