interview
2024/10/7 掲載
こんな仕事があるのか岩手/11
「地方は仕事が少ない…」と思っているとしたら、それ、誤解です。岩手には意外な職種や面白い仕事がいろいろあるんです。今回ご紹介するのは、競走馬を支える獣医師の仕事。動物病院のドクターは身近な存在ですが、競馬場ではどんな風に働いているんでしょう。岩手県競馬組合の新村千春さんにお話を伺いました。
皆さんは、間近で競馬を見たことがありますか。細く長い脚を蹴り上げ、コースを疾走するサラブレットの姿は、躍動感にあふれ、とても美しいものです。
古くから「南部駒」と呼ばれる名馬の産地で、馬事文化が受け継がれてきた岩手には、盛岡競馬場と水沢競馬場があります。この2つの競馬場を行き来しながら、競走馬の健康を支えているのが、獣医師の新村千春(しんむら・ちはる)さんです。
新村さんが初めて馬と出会ったのは、獣医師を目指して学んでいた大学2年生のとき。競走馬や乗用馬を育成する「遠野馬の里」に、牧場実習で訪れたことがきっかけでした。
「10日間ほど泊まり込みで実習があったんですが、馬が大好きになってしまって。神奈川に戻ってからも頻繁に岩手に通っては、チャグチャグ馬コを見たり、馬に会いに行ったり、どハマりしました」。
馬愛が高じた新村さんは、大学を卒業するとまっしぐらに岩手へ。雫石町にある小岩井農場で5年ほど働いたのち、岩手県競馬組合に転職。念願だった馬の獣医師として、日々馬と向き合っています。
では、競走馬の獣医師ってどんな仕事をしているのでしょう。ケガや病気をしたときの治療?…と思いきやそうではありません。
競馬場には、平常業務日とレースが行われる開催日(日・月・火)があり、このスケジュールに従って仕事の内容も変わるのだそう。
まず平常業務日には、レースでケガをした馬の診察やデビューを控えた馬の能力検査、投与するワクチンのチェック、定期的な厩舎巡回など、仕事は多岐に渡ります。
一方、開催日には、全ての出走馬の病歴確認に始まり、レース前の歩様チェックや馬体検査、発走地点で馬に不具合が出たときに備えての立ち合い、事故馬の救護や診療、レース後の上位入賞馬のドーピング検査など、さまざまな業務を在籍する獣医師が手分けして行います。
「レース前に歩様がおかしかったり、気がたかぶって暴れて転倒する馬もいます。現場ではいろいろなトラブルが起こるのですが、少しでも不安がある場合は出走を取りやめる判断をします。大きなケガにつながったら大変ですし、公正なレースが成り立ちませんから」と新村さん。
なかでも一番注意しているのが、薬物の問題。競走能力に影響を及ぼす禁止薬物を使用していないか、普段から調教師や治療を担当する民間の獣医師と連携し、指導やチェック、情報共有を行っているといいます。
このように競走馬の獣医師はさまざまな業務に携わりますが、仕事で一番嬉しいのは「何事もなくレースを終え、馬が元気で戻ってくる」こと。いつも新村さんは、「無事でありますように」と願いながら、パドックからコースへ出ていく馬たちを見送り、レース中の様子を見守ります。
「馬と一緒に仕事ができるだけで幸せ」と話す新村さんですが、苦労されていることはないのでしょうか?
「馬が大好きなので、大変だと思うことはありません。むしろ、馬たちが一生懸命走っている姿を見ていると、私のほうが励まされますね」とにっこり。
唯一気がかりなのは、大型動物を扱う獣医師が少ないこと。大学で学んでいたときも、卒業生の多くは動物病院の医師を志望し、新村さんのように馬や牛などの大型動物を扱う道に進む人は稀だったとか。
「動物病院の獣医師って、時間や曜日に関係なく患者が来ることも多いので対応が大変なんです。その点、岩手県競馬組合は休日もしっかり取れるので、オンとオフの切り替えがしやすいですね」。
休日は、趣味の乗馬やオーケストラ、さんさ踊りと、アクティブに活動している新村さん。今後、出産をしても仕事と子育てを両立させながら、「ずっと馬と一緒に働きたい」と話してくれました。
将来、獣医師を目指している皆さん、いかがでしたか。小動物のみにこだわらず大型動物に対象を広げると、競馬場で働く獣医師という仕事を選択することができます。特に馬が好きという人は、一度競馬場に足を運んでみるのもいいかもしれません。
(取材時期:2024年8月)
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2024年に設立60周年を迎えた岩手県競馬組合は、魅力ある競馬の開催、お客様に喜んでいただける競馬場運営を目指して事業を展開しております。競馬組合の仕事は獣医師だけではなく、競走番組作成、公正確保事業、イベント・広報活動、施設の維持管理等、様々な業務があります。興味をお持ちの方、私たちとともに岩手競馬の未来をより良いものにしていきませんか。
1964年に設立。岩手県・盛岡市・奥州市で構成される一部事務組合で、地方競馬主催者として岩手競馬を運営しています。年間概ね130日間の競馬開催を実施し、さまざまな改革・改善に取り組みながら事業を展開、17年連続の収支黒字を達成しています。