みんなの想職活動

interview

2024/8/30 掲載

岩手で仕事はじめました/07

いわて三陸の海で叶える!若手漁師の夢

岩手出身でUターンした人、県外からIターン・Jターンした人など、岩手で働き始めた社員さんをご紹介! 今回は牡蠣漁師になるため、新卒で岩手に移住した牡蠣漁師・須田大翔(すだ・ひろと)さんが登場。漁師を目指したきっかけや岩手暮らしの魅力をインタビューしました!

須田さんは東京の出身なんですね。もともと漁師の仕事に興味があったのですか?

大学では観光学部に通っていました。都内の旅行会社の面接を受けて、内定をもらっていたんです。でも正直、本当にやりたいことではなかったし、このままで良いのだろうかという迷いはずっとありました。

そんなとき、たまたま電車内の広告で「漁業就業支援フェア」というのを目にして。とりあえず行ってみよう、とあまり深く考えずに足を運んでみたんです。そこで、いわて水産アカデミーの担当者と、今の親方としてお世話になっている藤田敦さんに出会いました。

漁師の仕事は日本各地にありますが、なぜ岩手を選んだのでしょうか。

いわて水産アカデミーの研修プログラムが良いなと思ったからです。1年間漁業の基礎知識や技術を学べる上、研修期間中も次世代人材投資制度を使って資金面のサポートを受けることができます。

親方からは「若手の生産者がどんどん減っている。もし来てくれるなら、漁場の権利も付与するから」と言われました。

通常は、漁場の権利や船をすぐにもらうことはできないんです。下積みの経験が必要だし、漁業組合の会員になってもすぐに漁場の空きが出るとは限らない。自分は本当に運が良かったですね。それに、水温など環境に影響されやすいほたてやわかめと違って、牡蠣は安定した生産ができるというメリットにも魅力を感じました。

漁師になることへの不安はなかったですか?

製鉄業を営んでいた祖父の影響もあって、ジャンルを問わず職人になりたいという思いは漠然とあったんです。

すでに内定が決まっている状態で突然岩手に行くことを決めたので、友達や家族は驚いていましたね。特に心配した母親からは、反対を受けました。でも、岩手でやりたいことを見つけたという自分の気持ちを尊重し、最後は納得して送り出してくれました。今では家族や友達にも牡蠣を送って、喜んでもらっています。

東京で生まれ育った須田さん。牡蠣漁師になるため、縁もゆかりもない岩手に移住し、漁師の世界に飛び込みました

移住後は、親方の船で働きながらいわて水産アカデミーに通ったとお聞きしました。研修ではどんなことを学びましたか?

漁業の基礎知識や、ロープの結び方などを勉強しました。牡蠣のことや漁のやり方は、実際の現場で働きながら親方に教わりましたね。親方は、とにかく仕事が早いんです。少ない人数でもちゃんと現場を回しているので、尊敬しています。

親方と二人三脚で育てた牡蠣。北上山系に囲まれ、気仙川から豊富なプランクトンが流れ込む広田湾は、良好な漁場として知られています

ふだんはどんな作業をしていますか?

「真牡蠣」という種類の牡蠣を養殖しているのですが、水揚げや出荷準備など、季節によって仕事の内容はさまざまです。

夏場は「温湯駆除」と呼ばれる作業があり、大きい釜に沸かした70度くらいのお湯に牡蠣をつけて、付着物を取り除くんです。こうすることで、牡蠣の身に栄養が行き届くようになります。暑い時期なので大変ですけど。

まさに体力勝負ですね。ほかにはどんな仕事があるのでしょうか。

真牡蠣の旬は2月ですが、水揚げはだいたい10月から4月上旬あたりまで続きます。水揚げ後は、牡蠣の種を仕込みます。小さな種を、一つひとつほたての貝殻につけて、ロープに挟んでいくんです。細かい作業なので、すごく神経を使いますね。

えっ、牡蠣ってほたての貝殻にくっついたまま育つんですか…!

種の時点で形が悪いものや、薄いものは成長したときに身が膨らまないので、電動ドリルで削り落としていきます。ほたての貝殻についた種が10個くらいになるように数を揃えて、間引きしていくんです。

軽々と船に飛び移り、「これっすよ」と牡蠣の稚貝を見せてくれました

細かい作業も丁寧にしているからこそ、良質な牡蠣が生産できるんですね。初出荷のときはうれしかったのでは?

もちろんうれしい気持ちもありましたけど、船や作業小屋を購入したことで責任が増し、身が引き締まる思いでしたね。

クレーンを使った作業では、吊り上げたロープから牡蠣が落ちてきて危険なことも。常に安全には細心の注意を払っているといいます

いわて暮らしはどうですか?

岩手に来て5年目になりますが、やっぱり冬の寒さは慣れないですね(笑)。でも自然豊かなところが気に入っています。作業が早く終わった日には、趣味のサーフィンを楽しむこともあります。大槌に良い波のポイントがあるんですよ。

本当に海が好きなんですね!

海に限らず、山も好きですよ。岩手の山にも登ってみたいな。それから先輩の漁師さんの家に呼んでもらって、一緒にお酒を飲むこともあります。今の暮らしは自分に合っていると感じているので、岩手に来てほんとに良かったですね。

自然の中で過ごすのが好きだという須田さん(写真左)。いい笑顔です!

須田さんの船、「翔陽丸(しょうようまる)」の名前の由来は?

……照れくさいですね。実は、大好きだった祖母の名前からもらっているんです。「陽子」の『陽』と、自分の名前「大翔」の『翔』から一文字ずつ取って、翔陽丸。祖母は自分が大学生の時に亡くなったので、漁師になったことは知らないんですけど。ずっと自分のことを気にかけてくれていたので、喜んでいるんじゃないですかね。

ただ、周りに本当のことを言うのは恥ずかしくて、漫画の「ハイキュー」の主人公と同じ名前にしたって言ってあるんですけどね(笑)。

最後に、今後の抱負を教えてください。

今は親方の漁も手伝いながら自分の船の仕事をしているので、体力的にもすごく大変なんですが…。いずれは独立しようと考えています。これまでに培った経験を生かして、自分のペースで仕事をしてみたいんです。

牡蠣をオンラインで販売することも視野に入れています。加工品販売にも挑戦して、旬の時期だけでなく、いつでもおいしい牡蠣を食べてもらえるようにしていきたいです。

(取材時期:2024年6月)

牡蠣漁師の仕事に興味を持った学生へメッセージ!

他人にどう思われるか、他人と比べることを重視せずに自分のやりたいと思った道に進むことをお勧めします。簡単にはやりたい事など出てこないかもしれませんが小さなきっかけや、行動から自分の道が拓けると思います。

■広田湾漁業協同組合
岩手県の最南端、陸前高田市にある組合。牡蠣やほたてなどの養殖を行い、加工・直売事業を営んでいます。

■紹介サイト
http://www.jfhirota.or.jp

■いわて水産アカデミー
https://www.pref.iwate.jp/sangyoukoyou/suisan/ninaite/1008512.html