みんなの想職活動

interview

2024/7/30 掲載

100年前からある仕事/06

職人技の結晶!200余年も愛され続ける箪笥とは?

塗師、鉄器職人、染物師など、岩手には数百年前から変わりなく受け継がれている仕事がたくさんあります。ここでは、時代の変化に合わせながらも、伝統の技を大切に守り、継承してきた職人たちの仕事をフィーチャー。岩手の手仕事に精通した「百年仙人」が案内します。

今回みんなに紹介するのは、奥州市にある岩谷堂タンス製作所だ。創業は江戸時代の天明3(1783)年。箪笥や仏壇、テレビボードなど、実用性と美しさを兼ね備えたさまざまな家具を作り続けている。今日は実際の製造現場を、13代目の三品綾一郎(みしな・りょういちろう)さんに案内してもらったぞ。

「天明の大飢饉」に苦しむ人々の生活を救済する産業のひとつとして、当時の岩谷堂城主が箪笥作りを命じたことが岩谷堂箪笥の始まりといわれている

岩谷堂箪笥は、組み立てや塗りなどの工程をそれぞれ分業で行っています。最初の工程は、「木取り」と呼ばれる箪笥のパーツ作り。箪笥にはからくりや階段、車つきのものなどさまざまな種類がありますが、作り方はふた通りです。ひとつは無垢の一枚板から全てのパーツを作るものと、もうひとつは「合板」という材料を張り合わせた板から作るものです。一般的に流通しているのは合板で、希少な無垢材を使った箪笥は、価格もかなり高くなりますね。

紙の図面もありますが、紙にはカビが生えたり破けたりすることもあるので、「竿(さお)」と呼ばれる道具を使います。注文が入ったら、まずはその箪笥と同じ高さの竿を作るんです。裏には幅が書いてあるので、その竿を基に木取りを行っていくというのが代々続くやり方です。

つまり、ここにある竿の数だけ箪笥の種類があるということか!

壁一面にずらりと並ぶ竿。「別注・階段タンス」など注文のあった品目と、高さや幅が書き込まれている

抽斗や側板などのパーツが揃ったら、次は組み立てですね。

こちらは仏壇を組み立てている様子。オーダー後2ヶ月半ほどで仕上がるという

組み立ての後は、いよいよ漆を塗っていくのじゃな。塗り方には2種類あると聞いたのだが?

「拭き漆塗り」と「木地蝋(きじろ)塗り」の箪笥では、工程や見た目にも違いがあります。拭き漆塗りは、漆を塗ったらすぐに拭きとり、また塗るという作業を5~7回、木目への染み込み具合を見ながら繰り返すんです。透明な生漆を塗り重ねていくので、木目本来の美しさを生かした趣になりますね。一方、木地蝋塗りは塗った漆を乾燥させ、砥石で研いでいきます。丹念に表面を研ぐ作業を繰り返すことで、鏡のようなツヤのある仕上がりになるんですよ。

3回目の「拭き漆塗り」。素早くかつ丁寧にヘラを使う技術は、まさに熟練の成せる技じゃ
漆の拭き取りには古くなった着物を再利用していたぞ

最後は金具の取り付けだな。取っ手の見た目も豪華じゃのう。

もともとは、全部手彫りの金具を付けていたんです。ところが、デパートに卸すようになったあたりには生産が追いつかなくなってしまった。そこで鉄を型に流し込んで作る南部鉄器を取り入れることで、量産できる体制を整えていきました。

2024年は辰年ということで、龍がデザインされた取っ手も!

三品さんはこの仕事に就くまでに、どんなことを勉強してきたのかな?

工業高校のインテリア科を卒業後、専門学校では「インテリアデコレーター」という空間の構成や装飾を勉強しました。ただ当時は家業を継ぐということも、はっきりと意識していたわけではなかったんです。

転機となったのは、関東の家具屋で配送や販売の仕事に就いたとき。デパートの売り場に立った最初の1年は、簞笥を全然売ることができなくて…。当時25歳の自分と年配のお客様では、会話の内容のギャップが大きくかなり苦労しましたね。

先輩にアドバイスをもらったり、岩手にいる父親に電話をかけて話を聞いたりして知識を蓄えました。その甲斐あってようやく一竿、箪笥を売ることができたんです。それ以降、接客のコツを掴んだことで自信がつき、岩手に戻ることを決めました。

入社してからはどんな仕事をしたのかな?

現場に入り、箪笥作りを一から教わりました。といっても、まずは道具を作るところからでしたね。新品の鉋(かんな)は、刃や台の木目を調整する「裏押し」など手を加えてからでなければ使えないんです。並行して江刺にある職業訓練校にも通い、箪笥の材料となる木の性質や漆の塗り方の勉強を続けました。

この仕事にはどんな人が向いているだろうか。

それは「やる気のある人」ですね。この仕事をやりたいという強い意思があれば先輩からの助言も素直に受け入れられるだろうし、見て覚えるという姿勢も身についていくと思いますよ。

伝統工芸士でもある最年長の職人さんは、なんと勤続65年以上。「この仕事が楽しい」という言葉にも重みが感じられる

ふむ、まずは知識よりも気持ちが大切ということか。ところで、端材を利用した製品づくりにも取り組んでいるそうじゃな。

2014年に「Iwayado craft」を立ち上げました。これまでもなるべく端材は出ないように製作していたんですが、ここで昔から使う尺貫法(しゃっかんほう)と、注文の規格などで一般的に使われているメーター法では、どうしてもずれが生じて材料が余ってしまうんです。

限りある資材をなんとか再利用できないかといろいろ思案していたとき、妻が「こういうのはどう?」とヘアゴムやブローチに加工するアイディアを出してくれました。ちょうど同じタイミングで盛岡市の工場にあるレーザー加工機を使えることが分かり、製品化に踏み切りました。

桐の端材を使ったブローチ。手に取りやすい価格の実用品を販売することで、岩谷堂箪笥を知ってもらうきっかけにも

次世代につなげる活動もしているとか?

近年は、地元の小学校の体験活動にも協力しています。子どもたちはここで一人一回鉋をかけて、削った木を持ち帰るんです。話を聞くだけではなく実際にやってみることで、記憶に残る体験になっているようですよ。

ここまで長く箪笥を作り続けてこられたのは、先人たちがずっと地道にやってきたことが実を結んだからこそ。自分たちがここでまた新たな種まきをして、伝統工芸を後世につなげる役割を果たしていかなければと思っています。

三品さん(右)と妻のみなみさん(左)。「お客様の視点を忘れてはいけない」と、新たな取り組みや発信活動を続けている

古くから伝わる技術を大切に守りながらも、現代の暮らしがより豊かになる家具やアクセサリーなどを作り続ける職人たち。そうした姿勢が、伝統工芸の歴史を支えているのかもしれん。今後も岩谷堂箪笥が、末永く受け継がれていくことを願うばかりだ。

(取材時期:2024年2月)

岩谷堂タンス製作所に興味を持った学生へメッセージ!

「職人」という固いイメージの職業ですが仕事していく課程で発想の柔軟性、応用力、吸収力が求められます。その求められる能力のほとんどが経験から生まれています。

就職するにあたり必要な資格はあるかよく聞かれますが特に必要な資格はありません。

従事してから取れる資格はありますがまずは「やる気」という気持ちがあれば続けられる職業です。どんな職業を選んでも必ず壁にぶち当たることがあると思います。

なんとなく選んだ職業にならないように、何のために働くかしっかり目標をもって「やる気」の気持ちを育てて下さい。

(株式会社岩谷堂タンス製作所 三品綾一郎)

■株式会社岩谷堂タンス製作所
1783年創業。米びつや時計など、生活に身近な製品を取り扱う「岩谷堂くらしな」や、端材を利用して作り上げた「Iwayado craft」を展開。岩谷堂箪笥の伝統を守りながらも、現代の人々の視点に立ったものづくりを続けています。

■紹介サイト
https://www.its-iwayado.jp/