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interview

STARTUPアドベンチャー/05

子どもたちに夢を与える“ここにしかない”場所

起業した人はどんなことを考えているの?「想いをカタチにする」ってどうすれば?山あり谷ありの起業ストーリーに迫るべく、岩手で活躍する起業家をご紹介。今回は、合同会社TXFの福山宏さん(59)にお話を伺いました。

2019年4月、東北で初めてのBMXコースを作るべく、合同会社TXFが誕生しました。

BMXとはBicycle Motocross(バイシクルモトクロス)のことで、競技用に作られた自転車や競技そのものを指します。

競技の種類は、デコボコの坂道やジャンプ台などを攻略しながら駆け抜けるレースや、ジャンプ台を利用して空中でさまざまな技を決めるフリースタイルなどがあります。

世界的な競技人口は増加傾向にありますが、日本ではまだ少なく、東北にはレースコースすらありませんでした。そんな状況の中、TFX代表の福山さんは、なぜ大船渡市にスタジアムを作ったのでしょうか。

「三陸BMXスタジアムの設立は試行錯誤の連続でした」と語る福山さん

福山さんが大船渡市を訪れたのは、2011年4月のこと。東日本大震災から一ヶ月が経とうとしていました。

「私は当時、東京にある大手の通信会社で働いていました。ちょうど無線を中継して地域内の広域ネットワークを作る実証実験を手掛けていて、その技術を被災地で生かせないかと思い会社へ打診。被災地支援業務として大船渡へ来たんです。仮設住宅へのWi-Fi設置や、防災無線を受信できるコミュニティFM局の整備などを手掛けました」

そんな福山さんは、あるとき大船渡市の人口推計を見て愕然とします。そこには2010年の時点で4万人近くいた人口が、30年後には約2万5千人まで減少してしまう可能性があると書かれていたのです。

「私は大船渡で津波の爪痕を目の当たりにして、この街を今まで以上に良い場所にしたいと強く思いました。しかし、人が出て行く一方では意味がありません。今ここで暮らす人たちが、本当に必要とするまちづくりをしなければと考えました」

スケートボードも楽しめる室内パーク。地域の子供たちが夢中でプレイしています

そして2014年、福山さんは会社を辞めて、持続可能な街づくりを目指す株式会社地域活性化総合研究所を設立します。まずは地元の高校生や保護者に卒業後の意識調査を行い、ニーズを把握。「進学先がない」「働きたい企業がない」などの声がある中で、特に気になったのが「若者が楽しめる場所がない」という言葉でした。

やがて福山さんのもとに、一つの相談が寄せられます。それは「廃校になった自分たちの母校を、なんとか活用して残したい」というもの。その学校とは、三陸鉄道リアス線「甫嶺駅(ほれいえき)」から徒歩5分ほどの高台にある旧甫嶺小学校でした。

ここは震災時に津波で被災した他校と統合し越喜来(おきらい)小学校となり、2016年に新校舎へ移転。その後は空き校舎になっていました。

「旧甫嶺小学校からは海が一望できるので、活用するならアウトドアスポーツだと思いました。構築費や維持費はもちろん、全国から人が足を運ぶような“世界的に有名だけど東北にはないスポーツ”という条件で考えた結果、BMXにたどり着いたんです」

ジャンプ台を使って回転したりハンドルを回したりと、高度な技を披露するBMXのフリースタイル

福山さんは息子の北斗さんに声をかけ、一緒に埼玉県にあるBMXのコースを見学しBMXの事業化に挑戦することを決意。その後、北斗さんは埼玉に移住し、2年かけてコースの運営や選手の育成について学び、TXFの設立に役立てました。

「私自身、BMXの知識がありませんでしたし、大船渡の競技人口はゼロの状態。事業としてやっていくには、あまりにリスクがあります。それでも日本にはBMXの施設が少ないことから、軌道に乗れば全国各地から大船渡へ人がやってくると考えたんです」

福山さんたちは施設を整備する傍ら、地元の子供たちにBMXの魅力を知ってもらおうと講習会や大会を開催。競技に魅了される子どもたちが増えるとともに、地元企業の協力も得られるようになっていきました。

そして2020年9月、ついに東北初の「三陸BMXスタジアム」が完成。旧甫嶺小学校の敷地に国内最大規模のコースを備えるほか、体育館を利用した室内パークを完備。さらには大船渡市が校舎を活用したドミトリーを整備し、BMXコースと室内パーク、宿泊施設が一体となった国内唯一の施設が誕生したのです。

2022年には年間1万3千人ほどの人が訪れたほか、2023年10月には全日本BMX連盟主催レースを開催。選手を含めた多くの人が、旧甫嶺小学校を訪れました。まさに福山さんが思い描いていた“全国各地から人が足を運ぶ場所”になったのです。

全国に先駆けてBMXのクラブチームを発足。現在、60人以上が所属しています

今後は選手の育成にも力を入れ、大船渡から世界へ挑戦できる選手を輩出したいと語る福山さん。最近では子どもたちがメキメキと腕を上げ、大会でも上位に食い込む成績を残しているそうです。競技人口ゼロからスタートしたTXFの取り組みは、ほかの地域にとっても魅力的なビジネスモデルになる可能性を秘めています。ぜひ今後の展開に注目してください!

福山さんから学生さんへメッセージ!

大船渡に来てから少しずつ農業を始め、苗を植える間隔が狭いと作物が育たないことを知りました。仕事も同じで、大勢の人が働く企業の中では、与えられた役割の枠を越えて自由に成長するのが難しかったと感じています。今は自分の個性を生かせますし、どんなに忙しくても“生きている”という実感があります。ぜひ皆さんにも、自分が魅力的に感じるものを大切にして、進路を選んでほしいです。

■合同会社TXF
2019年設立。東北初となるスポーツ施設を作ることで大船渡を訪れる人を増やし、地域経済の活発化に貢献するとともに、若者の定住や雇用促進を目指しています。国内最大規模にして唯一の民営施設として注目を集め、全日本大会では全国各地から集まった選手たちが熱戦を繰り広げました。

▼企業URL
http://txf.life/