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interview

こんな仕事があるのか岩手/03

1/100mmのミクロな世界で時を刻む芸術品をつくる

「地方は仕事が少ない…」と思っているとしたら、それ、誤解です。岩手には意外な職種や面白い仕事がいろいろあるんです。今回ご紹介するのは、世界が注目する高級腕時計「グランドセイコー」を生み出す、時計士の仕事。雫石町にある盛岡セイコー工業株式会社にお邪魔して、その仕事をのぞいてきました。

クオーツ時計と機械式時計は、秒針の動きで見分けられることを知っていますか? 

カチ、カチと1秒ごとに動いていたら、それは「クオーツ式」。電気エネルギーによって動く時計です。一方、流れるように細かい刻みで秒針が動いていたら、「機械式」。ぜんまいの動力で歯車を動かす時計です。

それぞれに良さがありますが、機械式時計の魅力といえば、精緻で美しい構造のムーブメント(時計を動かす心臓部)。200~300もの部品があるとされ、その金型や治具から手がけているのが、盛岡セイコー工業の「雫石高級時計工房」です。

防塵や空気の清浄に配慮された、「雫石高級時計工房」のクリーンルーム。機械式腕時計が生み出される聖地です

工房にあるクリーンルームは、時計のパーツを一つひとつ人の手で組み上げる時計づくりの中枢。ムーブメントの組み立てや調整、ケーシングなど、工程ごとに分かれて熟練の時計士たちが丁寧に作業をしています。

「髪の毛1本分の微差でもズレたら検査はパスできません」と話すのは、時計の外装部門を担当する大對 愛(おおつい・あい)さん。完成したムーブメントに文字板や針を装着し、埃がつかないよう細心の注意を払いながらケースに納める、最終工程を担っています。

文字盤に針を取り付ける様子。取り付けの位置がちょっとでもズレると、時計が止まることもあるとか

「ほんの小さな傷でも使い物にならなくなるので、ピンセットの扱いにはかなり神経を使いますね」。時計士たちが見ているのは、1/100mmのミクロな世界。指先の微妙な感覚を頼りにピンセットを操り、完璧にパーツを取り付けなければなりません。

今ではわずかなすき間も目視でわかる大對さんですが、「最初は指が震えた」とか。針の位置が少しズレただけで検査は失格、文字板に傷をつけたら交換になる…。どうすれば、スピードと精度を落とさずできるのか。周りの先輩たちに聞きながら試行錯誤を重ね、2年がかりで自分なりのやり方を見つけていったと言います。

兵庫県出身の大對さんは、滋賀県の時計学校で学んだ後に岩手へ。「時計は手間をかければかけるほど良くなるところが好き」

その一方で、自主的に取り組んでいたのが、「いわて機械時計士」1級と時計修理の国家試験への挑戦です。時計をバラしてゼロから組み立てる練習を毎日重ね、ひたすら腕を磨く。そうした地道な努力は、大對さんの知識を豊かにし、技術のレベルを確実に上げていきました。

「この仕事には終わりがなくて、やればやるほど新たな課題が見つかります。それをクリアするために学び、成長できることが、この仕事の面白さ」という大對さん。兵庫に帰省する際には、ふらりと立ち寄る場所があると言います。それは、東京・銀座の和光。自分が手がけた時計をお客さまが手に取り、喜んでいる様子を見ることが、「何より励み」になるのだとか。

2020年に誕生した「グランドセイコースタジオ 雫石」。隈研吾氏による設計で、ブランドの世界観とものづくりが体感できる場所として一般公開されています
「グランドセイコースタジオ雫石」の中には、機械式ムーブメントを構成するパーツが展示されています。一つひとつが精細で美しい!

最後に、時計士に必要な条件を聞いてみたところ、「集中力と忍耐力」という答えが返ってきました。

「細かい作業の連続ですし、うまく取り付けられずイライラが爆発しそうになることも(笑)。根気強く集中力を保てるかが大事ですね」。

外装部門で約10年。今は班長として後輩を指導する大對さんの夢は、「工房の全ての部署を回って、なんでもできる時計士になること」。熟練の技を持つ先輩たちの背中を追いかけながら、自分らしい時計士のあり方を見つけようとしています。

(取材時期:2023年10月)

盛岡セイコー工業に興味を持った学生さんにメッセージ!

熟練した匠の技能と先進技術を持つ当社は、従業員が働きやすい環境作りにも力を入れています。時計の知識が無くても大丈夫。入社後に技術を学んでい ただきます 。雫石から岩手のものづくりを一緒に盛り上げましょう!

盛岡セイコー工業株式会社総務部 採用担当

■盛岡セイコー工業株式会社
セイコーグループの一員である盛岡セイコー工業は、1970年に設立。熟練の技能士が生み出す高級機械式時計と、先進のシステムによるアナログクオーツウオッチムーブメントの両方を手がけ、腕時計製造の世界最高峰を目指しています。2020年には、グランドセイコーの機械式時計を製造する新施設「グランドセイコースタジオ 雫石」をオープン。ブランドの世界観を発信しながら、ものづくりを体感できる場所として一般公開をしています。

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