interview
2023/12/14 掲載
こんな仕事があるのか岩手/03
「地方は仕事が少ない…」と思っているとしたら、それ、誤解です。岩手には意外な職種や面白い仕事がいろいろあるんです。今回ご紹介するのは、世界が注目する高級腕時計「グランドセイコー」を生み出す、時計士の仕事。雫石町にある盛岡セイコー工業株式会社にお邪魔して、その仕事をのぞいてきました。
クオーツ時計と機械式時計は、秒針の動きで見分けられることを知っていますか?
カチ、カチと1秒ごとに動いていたら、それは「クオーツ式」。電気エネルギーによって動く時計です。一方、流れるように細かい刻みで秒針が動いていたら、「機械式」。ぜんまいの動力で歯車を動かす時計です。
それぞれに良さがありますが、機械式時計の魅力といえば、精緻で美しい構造のムーブメント(時計を動かす心臓部)。200~300もの部品があるとされ、その金型や治具から手がけているのが、盛岡セイコー工業の「雫石高級時計工房」です。
工房にあるクリーンルームは、時計のパーツを一つひとつ人の手で組み上げる時計づくりの中枢。ムーブメントの組み立てや調整、ケーシングなど、工程ごとに分かれて熟練の時計士たちが丁寧に作業をしています。
「髪の毛1本分の微差でもズレたら検査はパスできません」と話すのは、時計の外装部門を担当する大對 愛(おおつい・あい)さん。完成したムーブメントに文字板や針を装着し、埃がつかないよう細心の注意を払いながらケースに納める、最終工程を担っています。
「ほんの小さな傷でも使い物にならなくなるので、ピンセットの扱いにはかなり神経を使いますね」。時計士たちが見ているのは、1/100mmのミクロな世界。指先の微妙な感覚を頼りにピンセットを操り、完璧にパーツを取り付けなければなりません。
今ではわずかなすき間も目視でわかる大對さんですが、「最初は指が震えた」とか。針の位置が少しズレただけで検査は失格、文字板に傷をつけたら交換になる…。どうすれば、スピードと精度を落とさずできるのか。周りの先輩たちに聞きながら試行錯誤を重ね、2年がかりで自分なりのやり方を見つけていったと言います。
その一方で、自主的に取り組んでいたのが、「いわて機械時計士」1級と時計修理の国家試験への挑戦です。時計をバラしてゼロから組み立てる練習を毎日重ね、ひたすら腕を磨く。そうした地道な努力は、大對さんの知識を豊かにし、技術のレベルを確実に上げていきました。
「この仕事には終わりがなくて、やればやるほど新たな課題が見つかります。それをクリアするために学び、成長できることが、この仕事の面白さ」という大對さん。兵庫に帰省する際には、ふらりと立ち寄る場所があると言います。それは、東京・銀座の和光。自分が手がけた時計をお客さまが手に取り、喜んでいる様子を見ることが、「何より励み」になるのだとか。
最後に、時計士に必要な条件を聞いてみたところ、「集中力と忍耐力」という答えが返ってきました。
「細かい作業の連続ですし、うまく取り付けられずイライラが爆発しそうになることも(笑)。根気強く集中力を保てるかが大事ですね」。
外装部門で約10年。今は班長として後輩を指導する大對さんの夢は、「工房の全ての部署を回って、なんでもできる時計士になること」。熟練の技を持つ先輩たちの背中を追いかけながら、自分らしい時計士のあり方を見つけようとしています。
(取材時期:2023年10月)
盛岡セイコー工業に興味を持った学生さんにメッセージ!
熟練した匠の技能と先進技術を持つ当社は、従業員が働きやすい環境作りにも力を入れています。時計の知識が無くても大丈夫。入社後に技術を学んでい ただきます 。雫石から岩手のものづくりを一緒に盛り上げましょう!
盛岡セイコー工業株式会社総務部 採用担当
■盛岡セイコー工業株式会社
セイコーグループの一員である盛岡セイコー工業は、1970年に設立。熟練の技能士が生み出す高級機械式時計と、先進のシステムによるアナログクオーツウオッチムーブメントの両方を手がけ、腕時計製造の世界最高峰を目指しています。2020年には、グランドセイコーの機械式時計を製造する新施設「グランドセイコースタジオ 雫石」をオープン。ブランドの世界観を発信しながら、ものづくりを体感できる場所として一般公開をしています。
▶︎シゴトバクシバIWATE
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