interview
2025/12/2 掲載
ススム働き方改革/18
遠野市内で高齢者を対象とした介護サービス事業を展開する、社会福祉法人とおの松寿会。現在、178名の職員が働いていますが、数年来、慢性的な人手不足が続いています。
働き手が少なくても、現場が回る体制をつくるには、どのように改善すれば良いのか……。2022年に経営改革室を設置したことをきっかけに、本格的な働き方改革に取り組み始めました。
業務の「見える化」で
現場の問題点を改善!
「まず、職員一人ひとりと向き合い、現場の課題を拾い出すことから始めました」と話すのは、今回話を伺った経営企画室室長であり、事務長も兼務する松田学さん。
働き方改革を進めるにあたり、とおの松寿会では、3施設の施設長と現場のリーダーである15~16名の主任によるプロジェクトチームを発足。178名の全職員に面談を行い、現場の課題や個々の悩みなどを詳しくヒアリングしました。

これによって明らかになったのは、職員の業務に係る「見えない負担」。介護の仕事には、利用者に対する直接的な介護だけではなく、ベッドメイキングやおむつの補充、洗濯物の配布など、間接的な業務が多くあります。
こうした業務を全て「見える化」することで、負担の重い業務や効率の悪い業務などを洗い出し、問題点を分析・検討。これをカテゴリー別に振り分け、優先順位の高いもの、すぐできるものから取り掛かりました。
「お年寄りにとって食べることは生きることに直結しますから、食事介助は最も手が抜けない仕事です。でも、職員1人で3~4人の介助をすると2時間もかかってしまう。その皺寄せが他の業務にも影響し、最終的に残業が増える……という悪循環でした」と、松田さんは振り返ります。
そこで始めたのが、食事介助を手伝ってくれる専任のパートを採用すること。朝夕2時間ずつ勤務してもらうことによって、職員の食事介助の負担を減らし、他の仕事に時間が割けるように改善したのです。

他にも、介護記録を電子化したり、一発でシーツ交換ができるワンタッチシーツの導入など、業務の効率化に役立つさまざまな取り組みを実践。また、試験的ではありますが、夜間に寝ている利用者の脈拍数や心拍数などをモニターで確認できるシステムを導入し、夜勤中の見回り回数を軽減するICT化の取り組みも始めています。

24時間の業務を細かく見直すことで、業務改善のヒントを見つけたんですね。
「なりたい自分」を目指して
段階的にキャリアアップ!
とおの松寿会の施設では、要介護度に関係なく利用者を25名ずつ4ユニットに分け、ユニットごとに主任が現場チームを率いています。しかし、それぞれの役職に求められる役割や能力が明確でなかったため、スキルアップ中心の育成に留まっていました。
2023年から導入したキャリアパス制度は、初級から管理職まで、職位ごとに必要な能力やスキル、昇進条件やそれに伴う賃金体系などを明確化。将来なりたい姿を具体的にイメージし、段階的にキャリアアップできるようになりました。

「介護職で入っても、生活相談員やケアマネジャーへ転向を希望する人もいますし、教育にシフトしたい人も介護技術を極めたい人もいます。そんな志向の変化にも対応できるよう、一年ごとに自分の目指す姿を個別研修計画に落とし込み、必要な研修を受けられるようにしています」と、松田さん。
こうした個々のキャリアについて確認し合う場が、上司と部下による1on1ミーティングです。目指すキャリアの変更はもちろん、掲げた目標の達成具合や現在の課題、仕事の悩みや不安などを話し合う機会を定期的に設け、職員の成長をサポートしています。
松田さんは、「リーダーである主任たちも、これまで現場を回すことに精一杯で、部下とじっくり話す機会がありませんでした。一人ひとりの課題や悩みに向き合うことで、個々に合ったフォローができるようになりましたし、管理職としての自覚も育っているように感じます」と、手応えを感じています。

目指す姿や成すべきことが明確になると、頑張り方も変わりますね。
腰痛予防を中心に
職員の健康をケア
より良いサービスを提供するためには、職員の心身の健康を守ることが欠かせません。しかし介護には、前屈みや中腰など、腰に負担のかかる動作が多くあり、腰痛に悩む職員が多いのが実情です。
とおの松寿会では、健康経営の取り組みとして、日常的に腰痛予防体操を行っているほか、腰痛予防ベルトを全職員に支給。遠野市と連携して、講師を招いてのエクササイズやヨガ教室なども開催しています。
また、業務上でも身体への負担を軽減するため、スライディングボードを導入。利用者の身体を持ち上げることなく、スライドさせるだけで車椅子に移動できるノンリフティングケアに取り組んでいます。

こうした健康経営の取り組みのほか、子育て中の女性職員には子ども手当を支給したり、男性の育休取得を促したり、各種制度の充実を図ることによって、職員の生活面もバックアップしています。

職員のケアを大事にすることで、仕事と家庭の両立を支えているんですね。

業務の効率化による時短をはじめ働きやすい職場づくりを通して、残業時間は月平均5時間以内、有休取得率60%以上を実現しているとおの松寿会。
これまでの取り組みが認められ、「令和7年度介護職員の働きやすい職場環境づくり内閣総理大臣表彰及び厚生大臣表彰」では、奨励賞を受賞しました。また、若者の採用・育成にも積極的で、雇用管理状況などが優良な企業に与えられる「ユースエール認定」も受けています。
「働き方改革の本質は職員がやりがいを持って働ける環境をつくること。ここでの仕事が楽しく誇らしい、ここの仲間と働くのが楽しい。そう思ってもらえる環境づくりをすることで、職員の人生も豊かになるような職場にしていきたいと思っています」と、松田さん。
さらなる働き方改革を進めながら、社会的評価も高めていくことで、職員一人ひとりが誇りを持ち、生き生きと楽しく働ける職場・組織を目指しています。
(取材時期:2025年9月)
とおの松寿会に興味を持った学生さんにメッセージ!
私たちは、お客様に質の高い介護サービスを提供するために、職員の物心両面を満たすことが大切だと考えています。職員が満たされ、お客様に良質な介護サービスを提供する。そしてお客様から笑顔をもらい働きがいを感じられる。このような好循環をうみだす働き方改革ができたらいいなぁと考えています。
私たちの働き方改革は、まだまだ道半ばです。あなたの力を貸してください。一緒に働けることを願っています。

■社会福祉法人とおの松寿会
「高齢者のゆたかな暮らしをサポートする」をミッションに、遠野市で特別養護老人ホーム、養護老人ホーム、ショートステイ、デイサービス、グループホームなど、3つの拠点で9つの事業を展開しています。最新のテクノロジーやデジタル技術を導入しながら、介護する人も介護される人も幸せになれる環境づくりを目指しています。
えるぼし認定企業、いわて子育てにやさしい企業等認証、いわて女性活躍認定企業等(ステップ2)、イクボス宣言など
▶シゴトバクラシバいわて
https://www.shigotoba-iwate.com/kyujin/company/24000050038890





