みんなの想職活動

interview

2025/10/24 掲載

あつまれ!熱血技術者/12

服の全体像をイメージし形にしていく面白さ

ものづくりに魅せられ、製品開発に心血を注ぐ技術者たち。彼らは、どんなことにこだわり、どうやって驚くようなアイディアを生み出すのか?日進月歩の世界で凌ぎを削る、熱き技術者たちに迫るこのコーナー。今回は、株式会社二戸ファッションセンターの蒔苗美奈子さんにお話をお聞きしました!

私たちが毎日身にまとう衣服の多くは、人の手によって縫製され、縫製工場で一つひとつ丁寧に仕立てられています。世界でも有数の縫製技術を誇る工場が、北いわてエリア(二戸市・久慈市周辺)には数多くあります。

そのひとつが、二戸市に拠点を置く、株式会社二戸ファッションセンター。アパレルメーカーからの依頼を受け、多様なアイテムを手がける縫製工場です。ジャケットからカットソー、パンツ、ワンピースまで、オールアイテムに対応できる柔軟性を強みとし、地域に根ざしながら全国に製品を届けています。

お話を伺ったのは、同社でパタンナー・CADオペレーターとして活躍する蒔苗美奈子(まかなえ・みなこ)さんです。CADとは、コンピューターを使ってパターン(服の型紙)を作成するシステムのこと。アパレルメーカーから送られてきたパターンをもとにデータをチェックし、CADソフトを用いて縫い代やシルエットなども考慮して微調整を加え、量産用パターンへと仕上げています。

迅速かつ丁寧に進めるためには、細かいチェックが欠かせません。パターンの作成には、ものによっては半日から一日を要することもあります

パターンとは、生地を裁断するための型紙であると同時に、平面の生地を立体的な洋服に仕立てるための「設計図」のようなもの。量産型パターンを製作するときは、生地の特徴や縫製法をはじめとする服飾づくりの知識や、設計意図を正確に読み取る力に加え、納期内に仕上げるための効率性も求められます。

「生産性を高め、縫いやすい設計にするために、縫製担当のスタッフにパターンを確認してもらい、縫い方についてアドバイスをもらうこともあります。それをメーカー側にフィードバックして、問題がなければ進めますし、納得いただけない場合は、要望に沿えるよう調整し直します。現場の声とメーカーをつなぐ役割は大変ですが、より良い服づくりを行う上で、大切なプロセスなんです」

「日々、多種多様な服のパターンを調整するのは大変ですが、服の特徴が活きるようにするにはどうすればいいかな?と考えながら布地に触れるのは楽しいですし、成長にもつながりますね」と蒔苗さん

青森県出身の蒔苗さんは、高校卒業後に服飾専門学校でパターン技術を学びました。その後、青森県内のアパレル企画会社や縫製工場で、パターンと縫製の仕事を経験し、二戸ファッションセンターに就職。現在はCADオペレーターを務めるなど、服飾の経験を着実に積み重ねてきました。

学生の頃から、衣服の生産過程で余った生地・残布(ざんぷ)が廃棄されてしまうことに、問題意識を持っていた蒔苗さん。「残布を使って何かに活かせないか」と考えていたところ、二戸ファッションセンターでファクトリーブランド立ち上げの話が持ち上がり、残布と二戸市の伝統である漆塗りを組み合わせた「采衣(さい)」が2020年に始動しました。

漆染めのリネンワンピース。ブランド名の「采衣」には、良質な衣料を身にまとって、気持ちを彩ってほしいという思いが込められています

「残布は一つひとつ素材や形状が異なるため、新しい服に生まれ変わらせるには豊富な知識と経験が欠かせません。そこは、二戸ファッションセンターの強みである『オールアイテムに対応できる力』が活きていると思います」と蒔苗さん。その力を活かす中でも、試行錯誤の連続だったといいます。

「これまでうちの会社では、下請けの仕事しかしてこなかったので、自分たちで企画して販売すること自体が初めての経験でした。采衣のコンセプトである『地球にやさしい服づくり』を実現するため、在庫を持たないようフリーサイズにしましたが、どの年代や体型の人にも合うシルエットづくりに苦戦しましたね。完成した服を見たお客様から「素敵な服だね」と言ってもらえることも多く、試行錯誤のかいがありました」と微笑みます。

昨年は県立大盛岡短期大学部の学生とコラボレーションし、卒業研究で制作する服の素材として残布を提供。服づくりに関するアドバイスも行いました。今後もそうした取り組みを視野に入れつつ、「自分自身も一からパターンをつくり、服に仕立てるまでの一連の工程に取り組んでいきたい」と意気込みます。

イベント展示用に蒔苗さんが残布でつくったフリルスカート。配色やボリュームの工夫を通して、服づくりの楽しさを改めて実感したといいます

「自分がイメージしたものが形になったときの達成感こそ、服づくりの面白さだと思います。これからも知識と実践を重ね、より多くの服づくりに携わっていきたいですね」

そう話す蒔苗さんの眼差しからは、成長したいという強い意欲とワクワク感があふれていました。

オールアイテムに対応できる柔軟性と、残布を活かしたアップサイクルの挑戦。二戸ファッションセンターは、服づくりの原点や面白さに立ち返り、これからも挑戦を続けていきます。

(取材時期:2025年7月)

二戸ファッションセンターに興味を持った学生さんにメッセージ!

縫製工場は、人員人材不足もあり常に厳しい状況です。
表に出る華やかさはありませんが、地道な積み重ねで得たスキルは一生ものです。
一ヶ所にとどまらず、さまざまな所で経験を積んで、素晴らしい人生を目指してください。

■株式会社二戸ファッションセンター
1974年創業。二戸市に拠点を構え、婦人服を中心とした大手アパレルブランドの製品を数多く手がける縫製工場です。高度なパターン技術やCADシステムと、熟練の縫製技術を備え、特殊ステッチや小ロットにも柔軟に対応できる体制を強みとしています。生地の無駄を減らすアップサイクルや自社ファクトリーブランド「采衣」など、新たな取り組みを通して環境配慮とブランド展開の両立を目指しています。

▶シゴトバクラシバいわて
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