みんなの想職活動

interview

2025/1/17 掲載

100年前からある仕事/08

千年の時を超える炭焼きという職人技

塗師、鉄器職人、染物など、岩手には数百年前から変わりなく受け継がれている仕事がたくさんあります。ここでは、時代の変化に合わせながらも、伝統の技を大切に守り、継承してきた職人たちの仕事をフィーチャー。岩手の手仕事に精通した「百年仙人」が案内します。

はるか昔から日本に伝わる炭焼きの技術。国内最古とされている炭は、今から約30万年前の遺跡(愛媛県)から発見されたもので、昭和30年代までは暖房や調理など身近な燃料として利用されてきた。今回は、そんな人々の暮らしを支え続けてきた木炭を作っている谷地林業を紹介しよう。

谷地林業では年間を通じて木炭を作っているそうだが、どういったニーズがあるのかな?

当社で最も多いのが、飲食店や製造業などで用いられる燃料用木炭です。当社の炭は着火したときの火力が強く、火持ちが良いのが特徴。肉や魚を高温でサッと焼いてふっくら仕上げるのに適しています。北海道から九州までお客様がいらっしゃるんですよ

「木炭関連事業は、当社の出発点でもあります」と語る谷地譲(やち・ゆずる)代表取締役

日本全国に谷地林業のファンがいるのだな。最近はフランスへの輸出もスタートしたと聞いたが?

そうです。フランスで日本の食材や食器類を扱っている業者の方に気に入っていただき、自社ブランドの「黒炭(KUROSUMI)」の取り引きがスタートしました。日本の炭焼き文化は歴史が深く、ほかの国々と比べて品質が高いのだそうです。当社ではこれまでも、スイスやアメリカ、台湾などに輸出した実績があります。

海外からの人気も高い谷地林業の木炭

谷地林業がある久慈市は、昔から炭焼きが盛んだったのかな?

この地域は炭の原料となるナラの木が豊富にあったことと、生業となる産業が少なかったので炭焼きが貴重な収入源になっていました。農業と兼業で手掛ける人も多く、農閑期には山に窯を作って、その場で炭焼きをするのが普通でした。今は、窯がある場所に木材を運んで作業するのが一般的です。

炭を焼くには職人技が必要だと聞いたが、それはどんなことなのだろう?

炭焼きは、材料となる原木を窯の中にぎっしりと並べてから着火し、700~800度ほどの温度で焼いて炭化させます。一度火をつけたら窯の中を確認することができないので、職人たちは窯から立ち上る煙の色や温度、香りによって判断し、内部の温度を調整しています。

炭化させるために必要な空気を取り込むため、窯にはわずかな隙間を空けている

色や温度だけでなく、香りまで判断材料になるとは…恐れ入ったわい!しかも谷地林業では、平成30年度の「農林水産祭」で木炭業界初の「内閣総理大臣賞」を受賞したそうだな?

はい。これは炭焼き職人を束ねる「窯長(かまちょう)」が、研究に研究を重ねた成果です。窯長は季節や原木の状態によって、作業内容を細かく調整しています。これは彼が自ら学び、経験を重ねてきたからできる技。彼がいたからこそ受賞につながったと思っています。

谷地林業が作る炭は美しく、ずっと眺めていたくなるほど

なるほど。職人として技を磨き続けた結果が実を結んだのだな。燃料用以外で炭が利用されることはあるのだろうか?

例えば水道水を浄化するための炭や、クラフトウォッカを作る際に必要な白樺炭も作っています。最近は新たに枝葉などの未利用材を使用して炭を作る事業をスタートし、土壌改良に役立つ農業向けバイオ炭として活用しています。

今後はどのようなことを目標にしているのだろう?

当社は木炭製造だけでなく、森林整備や木質チップの製造なども手掛けています。木を伐るだけでなく、植えて育てることにも力を入れていて、持続可能な森林づくりが目標です。原料となる広葉樹は、切り株から芽が出て成長していくのが特徴。30年ほど育ったら、また伐採して炭にするというサイクルです。これは、炭焼き職人が昔から続けてきたことでもあるんですよ。

これからも森とともに生きられるよう、一本ずつ丁寧に植林する

現代のように「循環」や「持続可能」といった言葉が使われるよりもずっと前から、自然と人とが共存するスタイルが育まれていたのだな。

炭焼きに使う原木は、十分に育った状態で伐採します。そこに至るまでに吸収するCO2の量は、炭焼き作業で排出するよりも多いんです。そのため当社が作る木炭は、カーボンニュートラルな燃料としても注目されています。

先人たちが磨き上げた炭焼きの技。それを受け継ぐことで自然を守ることにもつながるとは…アッパレだ!百年仙人は、これからも谷地林業の取り組みを応援しておるぞ!


(取材時期:2024年10月)

谷地林業に興味を持った学生にメッセージ!

弊社は創業から100年以上、当地域で働く場所を作り出すことを一つの理念として事業を続けています。一方で時代に合わせて求められる事業を創出するため、変化することにも臆せず挑戦してきました。昔ながらの製炭技法を守りながら、時代に合わせて変化し続けることで今の形があります。皆さんのエネルギーや新しい考え方を活かし、谷地林業で次の時代を一緒に創っていきましょう!

■有限会社谷地林業
1916(大正5)年創業。現在は「地域に必要とされる企業」を目標に掲げ、木炭の製造および販売、育造林業、素材生産業、木材チップ製造など、地域の豊かな森林資源を生かした事業を展開。さらに土木・建築工事を担う建設事業部では、地域のインフラ整備も手掛けています。

▼シゴトバクラシバいわてURL
https://www.shigotoba-iwate.com/kyujin/company/54000020131370