interview
2024/9/5 掲載
世界に推したい企業/06
「害獣」を「まちの財産」に。その思いを胸に、全国でも類を見ないジビエサイクルを構築したMOMIJI株式会社。ジビエ事業の成功事例として全国から視察が来るという同社に、設立の経緯や今後の展望について伺いました。
・岩手で初めてのジビエ加工事業者
・地域や行政と連携し、害獣を町の新たな魅力へ
・ミッションは「出る杭になれ」「山を織り、恵みを届ける」
「MOMIJI株式会社」が大槌町に誕生したのは、2019年のことです。創業の背景には、「農作物を食べてしまう厄介者のシカをなんとかしたい!」という、町全体の悩みがありました。MOMIJIの代表を務める兼澤幸男さんは、会社を設立する前からハンターとして活動。しかし時間が経つごとに「シカにはシカの暮らしがあり、人間と同じ生き物なんだ」という思いを強くしていったそうです。
「当社が設立するまでは、撃ったシカをそのまま廃棄するのがほとんどだったんです」と語るのは、同社の広告・販売マネージャーの藤原悟美さんです。
「そうした状況に疑問を持ち、鹿肉を有効利用したいと考えた兼澤は役場に相談。そのとき、同じ思いを持つ『株式会社ソーシャル・ネイチャー・ワークス』の代表・藤原朋氏に出会ったんです」
やがて兼澤さんは、全国でも珍しい鹿肉の加工製造や販売をメインとした「MOMIJI」の設立を決意。藤原朋さんや役場の職員とともに、官民協働による「大槌ジビエソーシャルプロジェクト」の立ち上げに至りました。
その後、地元の猟友会や地域の人たちを含めて勉強会を行いながら、2020年に同プロジェクトを本格スタート。その後、持続的なジビエ事業「大槌ジビエサイクル」を完成させました。
「大槌ジビエサイクル」とは、鹿の捕獲や食肉の処理・加工、鹿角や革の活用、商品の流通、狩猟同行体験やハンターの育成、里山の安全確保などを行う、ジビエを中心とした今までにない地方創生のスタイルです。
現在は、ジビエ事業を「MOMIJI」が担当。地域で活動する20人ほどのハンターと契約を結び、同社が定めるルールに沿って鹿を捕獲してもらっています。
また、狩猟同行やシカの解体体験など、ジビエの魅力を余すことなく伝えるジビエツーリズムも開催。こちらは「NPO法人おおつちのあそび」と連携して行っており、自然の豊かさや食育につながる貴重な機会として人気を集めています。
「当社では、ジビエ事業に興味のある企業や団体の皆さまに向けて、『ジビエ塾』も開いているんですよ」と、藤原さん。2024年7月には、「ジビエ塾」に参加した遠野市の団体が「遠野ジビエの里」をオープンしました。
藤原さんは、「岩手県内はもちろん、全国的にも野生動物の被害に悩む地域がたくさんあります。今後はMOMIJIがジビエ事業の機運を高め、岩手県内のジビエ事業者が増えることを想定して連携を図り、ゆくゆくは『いわてジビエ』として全国にPRしていきたいと考えています」と、教えてくれました。
県内だけでなく、首都圏や大阪、京都などからも引き合いがある「MOMIJI」の鹿肉。臭みが少なく、驚くほど柔らかい食感と鹿肉の旨味が詰まった味わい、そして丁寧な処理に、一流シェフも絶賛しているそう。藤原さんは「今では廃棄するなんて考えられないくらい、魅力的な町の特産品になっています」と、自社の取り組みに対する自信をにじませました。
「農作物を食い荒らす邪魔者だから」と駆除するだけでなく、命に感謝し、地域の宝物として新たな価値を見出した「MOMIJI」。私たちが忘れてはならない“命の大切さ”を見つめながら、同社はこれからも地域の未来を切り開いていきます。
MOMIJIに興味をもった学生さんにメッセージ!
当社のミッションの一つに、「出る杭になれ」という言葉があります。実現したいことがあるなら、まずは挑戦すること。もしそれが叶わなくても、きっと次の挑戦の糧になります。ぜひ自分の夢のために行動してみてください!
■MOMIJI株式会社
2019年創業。大槌町のシカによる被害を打開しようという思いから発足。2023年には新工場を建設したほか、官民連携で進めていた「大槌ジビエサイクル」のジビエ事業をMOMIJIに集約しました。地域を巻き込んだジビエ事業として全国から注目されているほか、同社が販売する鹿肉や加工品などは、町の新たな特産品として人気を集めています。