interview
2023/12/11 掲載
STARTUPアドベンチャー/01
起業した人はどんなことを考えているの? 「想いをカタチにする」ってどうすれば? 山あり谷ありの起業ストーリーに迫るべく、岩手で活躍する起業家をご紹介。今回は、株式会社LOSS IS MOREの小川翔大さん(36)にお話を伺いました。
2023年設立のLOSS IS MORE。ロス材を買い取り、価値あるものに変換させ、商品として販売する取り組みを行なっています。そのプロジェクトの第一弾として、毎年母の日に大量に廃棄されるカーネーションを使用したクラフトジンが開発されました。
なぜ、このような会社を立ち上げたのでしょう?
もともと数年前から、まちづくりをプロデュースする会社を経営している小川さん。あるとき、岩手県内で生花店を営む田村フローリストさんから、空きテナントの開発依頼を受けます。打ち合わせをするうちに浮き彫りになったのは、花が大量に廃棄されてしまうという問題。まちづくり事業の一環として、ご自身も飲食店を経営されている経験から、食材の廃棄の多さには頭を悩ませていたといいます。
「廃棄は少なからず出てしまうもの。だからこそ、捨てられるものに収益を生み出すことができたら経営の幅がぐんと広がると考えたんです。花は少しでも傷がつくと売り物にはならず、市場全体で約3割が廃棄になってしまう。その金額は年間1500億円規模ともいわれています」
花をアップサイクルした商品はドライフラワーやキャンドルなどに多い印象ですが、食品として使われているのは珍しいですよね。発売するまでに、かなりの苦労もあったのでは?
「実は、すぐにクラフトジンを手がけたわけではないんです。最初はカレーを作ろうとしてたんですよ。エディブルフワラーを添えようかな、とか。でも、ロス材を使うコンセプトなのに育てた花を使うのは違うよな、という葛藤もあって。食のクリエイティブディレクターに相談したら、香りの強いスパイスと花を掛け合わせるなんてご法度だ! とアドバイスをもらったんです」
花の良さを最大限に生かせる商品は何か…。農薬の問題など諸条件を突き詰めていくと、答えは必然的に香りを楽しむお酒であるジンに行き着いたのだそう。
開発にあたっては、蒸留家の山口歩夢さんをビジネスパートナーに迎えました。植物はあっても花を使ったジンは前例が少なかったうえ、カーネーションだけを蒸留してもフローラルな香りにならない。そこで数種類の花をブレンドし、試行錯誤を重ねた結果、ようやくクラフトジンが完成したのです。
小川さんの「ロス材に豊かさを見出す」という熱意に賛同した人たちがどんどん集まり、出資を申し出てくれたといいます。飲食店経営者や元広告代理店経験者、人気の漫画家など、活躍する業種は様々。商品にどのようなメッセージ性を持たせるか、最適な広告プランはどうすればいいのか。あえて異なる領域のプロたちがチームを組み、それぞれに力を発揮することでブランドを確立していけると考え、LOSS IS MOREの法人化に踏み切りました。
大学では意匠建築を学んでいた小川さん。建築設計の枠に囚われず、建築にまつわる企画・運営をプロデュースしたいというビジョンを抱いていました。卒業後は、広告代理店へ入社。自ら申し出た地方勤務を経験するうち、「公民連携」を学ぶためプロフェッショナルスクールを受講します。そこで出会った講師から「岩手で一緒に働かないか」と声をかけられたことを機に独立、移住を決意したといいます。
「より良いまちづくりには、サービス業界の活性化と深い結びつきがあると考えています。今回クラフトジンを作ったのは、大量廃棄という社会的問題に貢献したいという側面もありますが、花屋を含めたサービス業界の経営負担を軽くしたいという思いが強いんです」
今後は、どんな経営展開を考えているのでしょうか?
「クラフトジンでは、花の香りを活かして後世に残るジンを作ることができたので、次は花の美しさを活かした建築デザインに取り組んでいます。あとはあまり知られていないですが、今問題になっているのは大量に捨てられてしまうゴルフボール。素材が特殊だと二次加工が難しいし、廃棄場所の問題もあるので解決が難しいですが、チームで戦略を練っています」
ゆくゆくは、エネルギーの循環まで視野に入れていると語る小川さん。集合住宅にサウナを設置し、廃熱を利用して生活に必要な熱エネルギーに変える、夢のようなプランも構想中なのだそう! 社会に溢れる様々なロス材を買い取り、新たな価値を吹きこむことで、経済が循環する仕組みを作る。今後も、時代と経営の先を見据えた小川さんの挑戦は続きます。
(取材時期:2023年10月)
小川さんから学生へメッセージ
「学生時代から、就職がゴールじゃないということはずっと考えていました。目指している大学や企業に入るということをゴールにしてしまうと、叶ったときに失速してしまう。でも目標の一歩先を見据えていると、そこを通過点として最高速度で突っ切ることができるんです。すると次へのステップが見つかるまでのタイムラグも少なくなりますよね。新しい環境に身を置いたとき、自分が探していた答えを見つけるためにも、とにかくゴールを一歩先へ見据えておくことはすごく大事なことだと思います」
■株式会社LOSS IS MORE
「ロス」の中にある価値を提案することで、関わる全ての人が豊かになる仕組みを構築。
食材、生花、建材など、世の中に数多ある「ロス」に対してサスティナブルな視点で問題意識を持ち、それらに対する具体的なアクションとしてユニークなプロジェクトを立ち上げます。
■企業サイト
https://lossismore.jp